October 2006

Entries Title

第1巻 巻頭言

Date
2006-10-02 (Mon)
Category
ご挨拶
巻頭言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 高齢者医療の見直しなどで医療費の伸びの抑制を目指す医療制度改革関連法が、本年6月14日午前の参院本会議で与党の賛成により可決され、成立しました。この結果、10月には高齢者の負担増が始まり、70歳以上で一定所得以上の人の窓口負担は現在の2割から3割になります。療養病床に入院している高齢者の食費・居住費が全額自己負担になるほか、70歳未満の人も含め医療費の自己負担の月額上限が引き上げられます。 加えて、75歳以上の全員が加入する高齢者医療制度は8年4月に開始することになり、一般的な所得の70~74歳の窓口負担が1割から2割に上がることになりました。75歳以上は1割のままだが、全国平均で月6200円程度と見込まれる新保険制度の保険料を払わなければならなくなります。
 一方、医療機関への大きな衝撃として、現在、全国に約38万床ある療養病床は12年度初めまでに15万床に削減し、23万床分は老人保健施設や有料老人ホーム、在宅療養などに移行させることになりました。これらの決定は、高齢者を対象として医療を提供している多くの医療機関にとっては経営的な打撃となります。
 わが国は今後さらに高齢化が進行し、疾病や障害のリスクが高く要介護になりやすい後期高齢者は、2025年には現在の2倍以上の2026万人に急増するものと推定されています。さらに、国の財政状況は、2006年度予算で国及び地方の長期債務残高は775兆円となり、国の収入の49兆円の約16倍、国民総生産514兆円の1.5倍であることを考慮すれば、今までと同様に高齢者への医療・福祉サービスを提供することはできません。とすれば、このような状況を受け入れ、医療・福祉の分野においてどのような対応をすれば、社会に利益が生み出せるか創意・工夫をしていかなければなりません。
 今まで高齢者は、療養病床をはじめ介護施設の中で、収容・管理されるというケアを受けてきましたが、これらのケアの方法は現在の高齢者のニーズに合っていません。多くの高齢者は、医療・介護の心配のない環境で、安心・安定し、自立して生活することを望んでいます。欧米福祉先進国では、特に後期高齢者を対象に、安心・安定し、自立して生活することを支援する高齢健康コミュニティが発展してきており、これが、日本の高齢者福祉サービスの枠組みの中で、最も遅れた分野です。
 わが国でも、療養病床をもつ病院が、有料老人ホーム、老人保健施設、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションを併設すれば、CCRCと同様の高齢者健康コミュニティが開発できると考えます。この高齢者健康コミュニティで、高齢者の自由と選択が尊重されるマネジメントを行うことができれば、社会への貢献は計りしれないものがあると考えます。
 当研究会は、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座の教員が発起人となり、「超高齢社会における潜在的なニーズ、新しいニーズに対応するために、保健・医療・福祉を連携、統合した、より効果的、より効率的なヘルスケア・システムを創造し、地域社会に貢献する」ことを目的として設立されました。医療経営・管理学講座では、医療問題を解決するための目的を明確にし、具体的に対策を組み立て、結果を評価し改善するシステムを構築することを目的としていますが、具体的なケーススタデイをしていくためには、このような研究会との連携が必要であると考えます。
 この研究会が、医療福祉経営マーケテイングの分野に新たな価値をもたらしていくことを願っています。

Return to Page Top