February 2018

Entries Title

『地域包括ケアを実現する 高齢者健康コミュニティ』中国語訳版出版のお知らせ

Date
2018-02-17 (Sat)
Category
研究内容


『地域包括ケアを実現する高齢者健康コミュニティ』の中国訳版が出版されました。

 

2014年6月に発行いたしました『~地域包括ケアを実現する~ 高齢者健康コミュニティ』は、「いつまでも自分らしく生きる新しい老いのかたち」をテーマに、高齢者ケアの先進地である米国のCCRCの事例を紹介しながら「生まれてきてよかった」と思える終活の在り方、また、高齢者が最後まで自立して生活できるための支援の在り方を提案する内容となっております。

 

今回の中国語版の出版を機に、高齢者健康コミュニティの理念が中国でも共有され、中国における高齢者ケアの発展に貢献できることを切に願っております。



訳者紹介


劉 寧 (NING LIU)

1997年中国四川大学外国語学部日本語科卒業、2002年日本学習院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了(経営学修士)。その後文部科学省国費奨学金外国人留学生として日本学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程単位終了退学。2004年ファイザー株式会社医薬品事業部入社、7年間勤務。2011年日本九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻入学、2013年修了(MPH)。

日本の医療介護市場及び関連政策制度に詳しい。得意分野は医療データ分析とマーケット分析。

日本病院管理学会会員、日本消費者行動学会会員、日本データサイエンティスト協会会員、中国中華医学会会員、米国PCORI(Patient-Centered Outcomes Research Institute)Ambassador



 

訳者の序:


介護生活と言いだすと、それは歳を取った後の話だと思う人が少なくありません。

歳を取った後の人生は本当にどうでもいいことでしょうか。アメリカで有名な心理学者のエリクソンが彼の著書「アイディンティティとライフサイクル」で、「人生における最後の段階は統合と自己肯定であり、今までずっと悩まされてきたことがここで答えを見つけるだろう」と言っています。

介護専門家のフランス人 Marescotti も彼の著書で、人類社会はせっかく私たちの先祖より何十年も長生きできるようになったのに、なぜ歳を取ったことに消極的なラベルを張らなければならないのでしょうかと指摘しています。

日本老年精神医学分野の第一人者長谷川教授は、歳を取ってからになって初めて今まで自分たちの自己満足の可笑しさに気づき、高齢者しか持っていないスピリチュアルに昇華していくとおっしゃっています。

今日の介護生活は実に大きな注目を集めた話題になっています。

欧州でも日本でも,人間性に満ちた哲学のレベルで高齢者生活を巡る議論が繰り広げられます。年齢は不幸の原因ではありません。高齢者を受け入れながらサポートする環境はないと、高齢者は幸せになれません。介護生活は人間同士の尊重と助け合いを意味しています。これらの理念は海外諸国の介護システムの発展に大きな原動力を提供しています。

このような背景の下、老人を収容するような過去の管理モデルが淘汰されつつ、高齢者の意思が尊重された上、住んでいる地域から支えられる生活支援モデルが主流になってきています。

両者の違いが次になります。前者は疾病又は障害が起こった後始めた挽回策であるのに対して、後者は高齢化社会の流れを真正面から向き合う前提の下、積極的に健康予防対策を行い高齢者生活の質を高める人生プランです。

この支援モデルは高齢者生活と介護に関する考え方に大きな変化をもたらしました。歳を取ってもできるだけ自立の生活を維持していくと同時に、地域・社会全体の支援体制が期待されなければなりません。これは訳者の私はこの「高齢者健康コミュニティ」から得られた最大の心得でもあります。

私は日本九州大学医学系学府医療経営管理学専攻で勉強していた時、日本の医療制度・高齢者医療政策の分野で著名な馬場園明教授と出会う機会に恵まれました。

馬場園教授と窪田先生が共著されたこの「高齢者健康コミュニティ」は、介護先進国のスウエーデンとデンマークの介護制度と歴史ばかりではなく、アメリカの CCRC モデルについても詳しく紹介してくれました。

この上で、二人の先生は日本の高齢者問題を解決するための答えも示してくれました。

即ち、一回だけ偶然の転倒や病気のせいで過去の暮らしをすべて中断せざるを得ないという残念の話をなくし、日本中の高齢者たちに自分の住み慣れた地域で残りの人生を続けさせていくために、地域包括ケアを実現する高齢者健康コミュニティを構築する必要があります。

また、老人医学・介護に詳しい馬場園教授は本書最後の章で、高齢者の直面する「喪失感」の生理的及び心理的な状態を科学的に分析し、それに対して介護者の取るべき介護の原則と行動規範も解説してくれました。

従って、本書は中国の医療・介護業界の皆さんに海外の介護事情を知ってもらうだけではなく、私たち周りの高齢者を理解し、自分たちの人生観を見直すためにも重要な意味を持っているのではないかとわたしは思います。

現在中国は急激な高齢化を迎えています。

著しい経済成長の次、医療・介護等社会保障制度の変革が求められます。

そのために、まず健全な政策制度作りが大前提であり、次に、海外の先進的な介護モデルを取り入れながら中国型の介護システムを構築していくことは重要です。

しかしながら、この目標を実現するには、高齢者と介護に対して社会全体の理解と意識改革が必要です。馬場園教授と窪田先生が共著されたこの「高齢者健康コミュニティ」が日本で出版された後、日本政府はすでに高齢者健康コミュニティの構築を日本経済改革の戦略的な一環として政策転換を図っています。

この著書の中国語版が中国で出版してから、我が国の介護政策や介護産業等に大きな影響を与えるようにわたしは大いに期待しています。

私たちの親世代はすでに高齢者になっていて、私たち自身も同じように歳を取っていくでしょう。

今から高齢者社会に向けて最善の介護体制を整えることは私たちひとりひとりにも密接に関係しています。私たち自身がいつか病気や障害に侵された日に、この本から教えられたことは必ず私たちの財産になるのではないかと強く思います。

中国の読者たちに本書を分かりやすく読んでもらうために、日本語原著の大量な文献を主要参考物とまとめて文末に添付しました。

また、出所を示していない図表は日本の原著者が作成されたもので、出所を示した図表は原書者が引用されたものです。

最後に、九州大学の馬場園教授と CCRC 研究所所長の窪田先生、及び日本九州大学出版会の皆さまにわたしにこの本を翻訳する機会を与えていただいたことに対して深く感謝の意を申し上げたいと思います。

また、仕事で一番忙しい時期に本書の中国語原稿の校正を助けてくれた父親にも感謝します。最後に、中国でこの本の最終出版に尽力していただいた中国四川科学技術出版社の秦伏男社長と罗小燕編集に感謝の気持ちを述べさせていただきたいと思います。

劉寧
2016 年 6 月に福岡


なお、日本語版は下記サイトより購入できます。
九州大学出版会 Kyushu University Press

第12巻 巻頭言

Date
2018-02-09 (Fri)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

 この研究会は、1973 年に老人医療費無料化を導入して以来、病気や障害をもつ高齢者は長期間医療機関に入院し、医療機関で亡くなっている現状を改善していこうという目的をもって誕生した。高齢者ケアの改善の指標は、社会的コストを下げることと、高齢者の QOL を高めることであった。現在、政府主導で、地域で高齢者の包括的なケアを行うハード、ソフト、人材を整備し、「地域包括ケアシステム」を構築する政策が進められている。「地域包括ケアシステム」は、「地域包括ケア研究会」によって、2010 年定義され、行政職員、医療・介護関係者に広く知られることになった。理念は、2012 年 2 月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」、2013 年8 月に発表された「社会保障制度改革国民会議」の報告書でも明快に示されている。そして、診療報酬改定でも介護報酬改定でも評価がなされてきた。しかしながら、高齢者ケアの改革の基盤となるべく、「地域包括ケアシステム」の構築は、現実の世界では一向に進んでいない。そこで、その理由と対策について検討してみたい。

 「地域包括ケアシステム」の構築が進んでいない理由として、まず、第一に挙げられるのは、「国民の無理解」である。「社会保障制度改革国民会議」の報告書では、「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」の観点から、医療の見直しと介護の見直しは一体となって行い、地域包括ケアシステムづくりを推進していく必要があるとされている。この意味は、今まで医療機関が担っていた介護の役割は地域で介護セクターに担ってもらい、医療機関には医療に特化していただくということであるが、これが理解されていないのである。第二に挙げられるのは、自治体において、「医療の見直しと介護の見直しは一体となって行わなければならない」という認識の欠如である。「地域包括ケアシステム」を機能させるには、地域で高齢者ケアを行うためのハードとソフトが必要であり、サービス提供者間で連携し、入院の必要性を減少させていくということが理解されていないのである。第三に挙げられるのは、医療と介護では自己負担の違いがあり、介護がふさわしいケースであっても、自己負担が安いという理由で医療が選択されることが多いことである。70 歳以上の高齢者では、所得が低ければ、医療では自己負担は月 1 万 5 千円で済む。しかしながら、介護施設や高齢者住宅では、自己負担は 10 数万にはなるからである。第四に挙げられるのは介護報酬が低すぎることである。そのために、介護労働者の賃金を下げざるを得ないし、そうなると人手不足となり、優秀な人材は集まらないことになる。たとえば、看護職は介護の分野においても極めて重要な役割を果たしているが、医療機関の賃金が高いために、介護の分野では人材不足となっている。

 対策であるが、第一の問題に関しては、国民に少子高齢化による社会保障費の逼迫と家族のケア力の低下を理解してもらい、地域で高齢者ケアの基盤を作る必要性を理解していただくことである。第二の問題については、自治体職員には、地域の高齢者ケアの基盤である「地域包括ケアシステム」を構築するためには、適切なハードとソフトが必要であることを理解してもらうことである。すなわち、「高齢者が年を経るごとに変わっていくニーズに応じて、継続して同じ場所で自分の意思が尊重された生活ができるように、介護の機能をもつ高齢者住宅、リハビリテーション施設、介護事業所、地域交流センター、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションなどを、IT を活用したネットワークで結び情報を共有する」仕組みの必要性があることを認識してもらえば、インフラが整備されていく方向になると思われる。第三の問題は、医療ではなく、地域包括ケアの枠組みで、セーフテ イ ネットを作ることで解消できると思われる。そのためには、低所得者への財源を用意する必要がある。 医療に関しては、年間当たりの入院日数の上限を設けることで社会的入院を制限することが可能となる。第四の問題は介護財源の拡大を図ることで問題をクリアーできる。介護保険の財源の半分を占める保険料において第 1 号保険者と第 2 号保険者が人数の割合で負担を行っている。第 2 号保険者の負担は、総報酬割である。介護資源が増えないのは、比較的低所得である第 1 号保険者の保険料を増やせないからである。保険料を支払う単位を都道府県にし、第 1 号保険者も第 2 号保険者も保険料を総報酬割にし、保険料の上限を撤廃すれば、市町村の介護資源の偏りはなくなり、財源を大きくすることが可能となると思われる。

 今後、地域包括ケアシステムを普及させていくためには、問題と対策を、政府、自治体、医療・介護職、国民で共有する必要がある。今後も粘り強く情報を発信していきたい。

第12巻第1号(2017年10月号)

Date
2018-02-08 (Thu)
Category
論文・機関誌

第12巻第1号(2017年10月号)が発行されました

PDFファイルにてお配りしております

医療福祉経営マーケティング研究 第12巻第1号 (2017年10月号)


冊子をご希望の方は事務局までご連絡ください


【目次】
■巻頭言
医療福祉経営マーケティング研究会
  理事長 馬場園 明

■原著論文
・精神科救急医療の効果に関する研究 ・・・ 1
  豊田 史郎、馬場園 明
・九州がんセンターにおける訪問看護ステーション医療モデルの構築 ・・・ 7
  竹山 由子、馬場園 明

■ケーススタディ
・加治木温泉病院における退院後の自立した生活を導くシステムの構築について ~リハ専門職による自立支援の取り組み~・・・ 19
  原口 友子、中村 真之、髙田 昌実、窪田 昌行、馬場園 明
・地域包括ケアシステムに資する有床診療所の役割を踏まえた日本型CCRCの研究 ~医療法人健成会鹿子生整形外科医院の事例研究~ ・・・ 31
  窪田 昌行、鹿子生 健一、橋口 啓子、本松 洋一、岡 政隆、鹿子生 寛子、古賀 大一郎、馬場園 明

■学術集会資料
・第7 回 医療福祉経営マーケティング研究会 学術集会プログラム・一般演題抄録集 ・・・ 39
・第10 回 病院経営の質向上研究会 プログラム・抄録集 ・・・ 61
・第11 回 病院経営の質向上研究会 プログラム・抄録集 ・・・ 67

■定例研究会報告
・第54回研究会報告 日本の医療法人制度の法体系・・・ 74
  山﨑 哲男
・第55回研究会報告 ドイツの医療制度・・・ 75
  馬場園 明
・第56回研究会報告 フランスの医療制度 ・・・ 83
  馬場園 明
・第57回研究会報告 わが国におけるジェネリック薬の進行 ・・・ 84
  馬場園 明
・第58回研究会報告 後期高齢者医療制度の問題と対策 ・・・ 85
  馬場園 明
・第59回研究会報告 生涯活躍のまち(日本版CCRC)の課題と対策 ・・・ 86
  窪田 昌行

■事務局だより
・医療福祉経営マーケティング研究会事務局 ・・・ 80

■お知らせ
・第8回 医療福祉経営マーケティング研究会 学術集会 ・・・ 81

■研究会規約
・医療福祉経営マーケティング研究会規約 ・・・ 82

■投稿論文規定
・投稿論文規定(和文・欧文) ・・・ 85

■編集後記
・医療福祉経営マーケティング研究会 ・・・ 86
  編集委員 津田 敏秀

第六十三回定例研究会

Date
2018-02-05 (Mon)
Category
定例研究会

参加希望者各位

第六十三回定例研究会を、平成30年4月5日(木)18:00より開催いたします。入場は無料ですので、どなたでも参加できます。御参加の方は、下記リンク先の申し込みフォームよりお申し込み願います。

<記>
第六十三回 定例研究会
 日 時:平成30年4月5日(木)18:00~20:00
 場 所:医学部基礎研究B棟204号 ※アクセス(外部リンク)
 テーマ:2018年度診療報酬改定と経営への影響
 講 師:医療福祉経営マーケティング研究会 理事長 馬場園 明



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