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第2巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 地域の医療機関で絶対的な医師不足が生じ、「長時間労働といった過酷な勤務条件」に加えて、「高い安全性を求める世論」に耐えかねて、臨床医が次々と病院を去っていき、地域で必要な救急医療、小児科医療、産婦人科医療などが行えない状況が起こっている。この状態は「医療崩壊」とも呼ばれている。これは、新医師臨床研修制度の導入をきっかけに、大学の診療科によっては入局する医師が大幅に減少し、地域の医療機関から医師を引き上げたことにより起こったとの説もあるが、原因は構造的である。
 医療崩壊は、老人医療費無料化以降できあがった医療供給体制が、近年の医療政策によって引き起こされた医療の需要の変化とマンパワーの供給の変化に対応できていないことが原因である。日本の保険医療支出は、米国の半額以下であり、カナダ、ドイツ、フランス、イギリスよりも低い。また、医師数も看護師数も少ない。一方、一般病床数は圧倒的に多く、病床利用率も高い。これらは、入院患者の絶対数が多く、平均在院日数も長いからである。1990年代は、一般病床の平均在院日数は30日を超えており、日本の医療機関の医療スタッフの少ない問題は、入院患者に高齢者が多く、在院日数が長かったため、あまり、顕在しなかったともいえる。
 しかし、近年、厚生労働省の政策により、平均在院日数が短くなり、リスク管理や診療録の管理などにも時間がかかっている。加えて、少子高齢化の影響のため、小児科や産婦人科の患者が減少し、医療機関にとっては採算が合わなくなっている。そのこともあって、小児科や産婦人科を志す医師が減少している。その結果、当直の中心となる若手医師が絶対的に不足し、労働条件が悪化し、ますます志願者が少なくなっているのである。それを考慮すれば、一般病床の機能分化を行い、急性期病院の効率化を行うことは必要であると思われる。また、小児科や産婦人科をはじめ、救命救急、麻酔科、外科など労働条件に恵まれない診療科を目指す研修医が不足する一方、労働条件の良い診療科目は人気があるのも問題である。さらに、新規に開業する医師も増加し続けている。医師の絶対数ばかりでなく、医師の診療科の偏り、地域の偏り、病院・診療所の偏りといった分布の解決が優先されるべきである。加えて、医師の3割が女性医師になろうとしているが、医師の労働条件が悪すぎて、仕事と家庭を両立できない女医の問題も真剣に考えるべきである。
 しかしながら、老人医療費無料化によって歪んでしまった日本の医療供給体制を是正していくことも重視すべきである。必ずしも医療ニーズの高くない高齢者が医療機関に長期間入院していることで人手不足が起こっていることは事実である。高齢者のケアでも、医療以外で対応できるものは医療以外で対応すべきである。高齢者が病気や障害をもった場合、その生活の支援のすべてを医療が担うのは効率的ではないし、高齢者の生活の質を向上させることもできないからである。
 高齢者は急速に増加しており、医療や介護の必要な高齢者も増加している。今や、高齢者において発生する疾病の数や必要とされる介護のニーズを定量的に把握して、公正に効率よく資源を配分していく知恵と技術が求められている。高齢者コミュニテイなどを建設し、疾病に懸った場合、まずは在宅療養支援診療所で対応し、他の医療機関と連携していくシステムは、今後、公正に効率よく資源を配分することに貢献できるのではないかと考えられる。医療福祉経営マーケテイング研究会で設計した新しい高齢者への医療・福祉サービスのシステムが実用化され、社会で生かされることを期待したい。