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第3巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 後期高齢者医療制度とは、75歳以上の後期高齢者を対象として、平成20年度に独立した医療制度である。保険料徴収は市町村が行い、財政運営は都道府県ごとに全市町村が加入する広域連合が実施する。財源構成は自己負担を除き、公費50%、現役世代からの支援40%、高齢者からの保険料10%である。平成20年(2008年)4月以降に、満75歳となる者については、「75歳の誕生日から」新制度の対象となるが、同様に特に手続きなどの必要はない。
 後期高齢者医療制度の評判が悪いのは、平成20年(2008年)4月の年金支給分から年金の支払期ごとに、該当分の保険料が自動天引きされて、年金の手取額が減ることになるのが一番の理由である。また、社会保険の被扶養者であった高齢者は保険料の支払義務がなかったが、今後、支払い義務が生じることもある。さらに、厚生労働省は後期高齢者を対象とした「かかりつけ医」制度の導入、そして後期高齢者の「外来診療への定額払い報酬の導入」の方針を後期高齢者診療料で示した。これによって、自分が受けたい病院で受けたい診察を受けるという「医療機関へのフリーアクセス」と、「必要な診療」が制限されるおそれがでてきたのである。このことが、後期高齢者医療制度が、「長寿医療制度」ならぬ、「姥捨て山医療制度」と呼ばれる理由である。
 しかしながら、2005年の1人当たり医療費は、15歳未満が129.5千円、15歳以上65歳未満が165.4千円、65歳以上は655.7千円、(75歳以上は819.1千円)、医療費に占める割合は、15歳未満が6.9%、15歳以上65歳未満が42.1%、65歳以上は51.0%、(75歳以上は28.8%)であった。今後1%ずつ医療費が上昇すると、2025年の1人当たり医療費は、15歳未満が158.0千円、15歳以上65歳未満が201.8千円、65歳以上は800.1千円、(75歳以上は995.5千円)、医療費に占める割合は、15歳未満が4.2%、15歳以上65歳未満が31.6%、65歳以上は64.2%、(75歳以上は47.8%)になり、医療費のうち3分の2を高齢者が使うことになってしまうのである。人口構成の割合の変化をみれば、このままの医療供給体制では医療保険制度は破綻していく可能性が高い。といっても、高齢者が受けられる医療に制限を加えることはできるだけ避けられる方が望ましい。
 わが国における少子・高齢化の進行は、他の先進諸国に比べ急速で、深刻であり、医療における需要と供給のミスマッチを生んでおり、開設している小児科や産婦人科の減少が社会問題となっている。また、進行中の医療制度改革では、高齢者のケアのあり方もターゲットになっているが、高齢者の入院医療のコストを検討すべき余地があると考える。高齢者の急性期の治療を病院で行うのは当然ではあるが、医療施設で行なう慢性期のケアは限定せざるをえないのではないかと考える。医療施設で医療スタッフが慢性期のケアを行うことは効率的ではないし、高齢者のQOLを重視したものにもならない。高齢者のケアを医療施設以外でも行うために、高齢者集合住宅などを整備して、在宅支援診療所や訪問看護ステーションなどと連携していく知恵と技術が求められている。