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第4巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 本年8月30日に行われた衆議院選挙により、民主党が勝利を収め、政権交代が行われることになった。マニフェストのなかでは、後期高齢者医療制度の廃止が謳われており、元の老人保健制度に戻すことも検討しているようであるが、これに対しては自治体から反発されている。
 わが国の国民皆保険制度は、雇用主に被雇用者と被扶養者を被用者健康保険に加入させることを義務づけ、それ以外の人は国民健康保険に加入させて、それに公費を投入することで成り立たせているのが特徴である。高齢者医療の財源は、制度間で財源調整をする老人保健制度で対応してきたが、国民健康保険に高齢者が増加し、しかも保険料収入の伸びが望めないために、老人保健制度の維持が困難になったのである。そのことが、後期高齢者医療制度の導入された原因であった。各都道府県を単位として連合を作り、スケールメリットを利用し、リスクを分散する方法は理にかなったものである。また、この財源は、高齢者自身の保険料で1割、その他の医療保険者から4割、そして残りの5割を国や県・市町村からの「公費」として、負担が明確になっていることも意義があると思われる。
 保険の基本は自分の医療費のリスクにみあった保険料を払うことであるが、疾病や障害のリスクの高い高齢者は、その仕組みでは保険料は非常に高くなってしまう。現役世代から高齢者へといった所得再配分が保険料や税金を通じてなされる必要がある。それは、助け合いの制度化である。そうであるからこそ、医療費を誰がどのように負担していくかということや医療費が何にどれだけかかっているかということについては公表され、議論した上で、納得して使われていく必要がある。
 後期高齢者医療制度では、高齢者にマッチした医療を提供することも謳われているが、これも的を外れたものではない。福岡県の高齢者医療費が高い理由は、1973年の老人医療費無料化を契機に、また、炭鉱などが多かったという福岡県の事情も重なり、障害や病気の高齢者を医療機関でお世話をしていくといった習慣ができあがってきたことと関連している。しかしながら、高齢者の割合は急速に高くなってきており、医療の現場で高齢者をケアしていくことは経済的に困難になっている。一方、高齢者は病気になっても自宅で生活し、終末を迎えたいという希望があるが、それをかなえられない現実がある。高齢者が自宅や高齢者住宅で生活しながら、在宅医療や訪問看護を受けながら医療を受けることも保障するための創意工夫が求められている。
 高齢者は疾病に罹りやすいので医療のニーズが満たされることは必要であるが、高齢者自身も医療機関に任せきりにしないで、自分の健康に気をつけ、医療やケアを自分で選んでいくといった姿勢も求められる。また、高齢者も、自尊の要求が満たされ、周囲の人に貢献するための自己実現の欲求を満たされるニーズもある。そのような視点で高齢者対策を行えば、高齢者の生活も充実し、疾病や障害の予防にもつながるばかりか、助け合いを基盤にした健康な社会を作ることにもつながっていくと思われる。
私達の医療制度は満足のいくものではないかもしれないが、すべての人が満足する医療制度を作ることはできない。問題があるから壊すというのではなく、問題があるところは改善しながら、国民皆保険制度を守っていくという姿勢が求められていると考える。