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第6巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

本年の夏、米国政府の債務不履行に関する問題が話題となり、14兆ドル以上の債務を抱えることが国際的に知られわたることになった。クリントン政権下では米国政府の財政は黒字であったが、ブッシュ政権下で富裕層の減税を行い歳入が少なくなったこととイラクとアフガンとの戦争で歳出が膨らんでしまったのがそもそもの原因である。その後、リーマンショックの対策のために巨額の支出を行い、2009年度は1兆4130億ドル、2010年度は1兆5560億ドルの赤字、2010年度も同等の赤字が見込まれ、財政が逼迫してしまったのである。これは不景気になれば財政を出動し、金利を緩和すれば何とかなるという政策は通用しない時代となっていることを示している。そのため、オバマ大統領は富裕層の増税を提案しているが、共和党は歳出削減を唱えている。その削減のターゲットとなっているのが高齢者のための医療保険であるメディケアである。
メディケアは、65 歳以上の者、社会保障給付の受給資格を有する障害者、慢性腎不全患者に受給資格を与えている。主な部分はパートAとパートBからなり、パートA は入院サービス、高度介護療養施設、在宅訪問診療、ホスピスケアなどの費用をカバーしている。主な財源は社会保障税である。一方、パートBは、医師の診察、検査、外来手術などの外来サービスなどを含んでいる。主な財源は、保険料と一般税である。米国は2008年現在、医療費に2.3兆ドル、GDPの16.4%を使っている。米国の高齢者(65歳以上人口)割合は12.7%に過ぎず、日本の22.1%よりも過ぎないが、メディケアによる支出は5,990億ドルにも上る。メディケアの加入者は4,500万人であるので、1人当たり1.33万ドルかかっていることになる。2010年からベビーブームの世代が、メディケアの受給者になっており、今まで積み立ててきたメディケアの信託基金は2019年には枯渇するであろうと予測されている。
メディケアの主な支払いの対象は急性期医療であるが、高齢者の疾患を急性期医療だけで完治させるのはむずかしいので、急性期医療に偏った支出をすれば効率が悪くなるのは当然である。プライマリケアや慢性期医療を重視していく方が、高齢者の医療にはマッチしているであろうし、費用もかからないであろう。加えて、米国は介護サービスに関しては公的にはカバーされないのが原則となっているが、今後の経済的な予想や高齢化を考えると介護保険も導入することも選択肢のひとつにしてもいいと思われる。高齢者の医療サービスは介護サービスと代替材的な側面があり、そのような分野では介護サービスの方がコストは安く、高齢者のQOLも向上させることができるからである。
日本では2000年に介護保険制度が導入された。高齢者介護を社会化することが制度化の目的であったが、コストがかかり、QOLの向上にもつながらない不適切な高齢者の病院や施設への入院や入所を防いでいくことも重要な使命であった。2011年現在、わが国では65歳以上の高齢者の約17%が介護保険の受給資格を認定され、500万人の人が利用している。導入後、施設サービスの受益者は83%増加したが、在宅、通所サービスを受給する高齢者は203%も増加し、約140万人がホームヘルパーによる訪問介護を受け、約190万人が通所サービスを利用している。日本の公的介護保険制度では、専門家の助言を得た上で消費者が、在宅、通所、施設サービスを選択できることが特徴である。また、現金給付を認めなかったことも専門的な介護を受けられる人が増加し、家族介護者の労働参加率も上昇することにつながった。一方、問題もある。2000年に55万人であった介護労働者が2008年には128万人まで増えたが、給与など労働条件が相対的に恵まれておらず、介護労働市場は慢性的な人手不足になっている。また、地域によっては介護事業者が少なく、十分な介護サービスを受けられない高齢者も存在する。さらに、コストがかかる24時間サービスを提供する事業者も不足している。そして、医療と介護の連携が悪く、高齢者のQOLに悪影響を及ぼしていくことも指摘されており、改善が望まれている。
日本の高齢者割合は1990年には12%であったが、2010 年には23%となった。これは世界一であるが、2050年には40%になると推計されている。世界に先駆けて超高齢社会となった日本は、高齢者に対するケアの質を上げるとともに効率化をすすめていく知恵や技術を蓄積し、その経験を海外にも発信していくことも求められていくであろう。