第7巻 巻頭言
巻 頭 言
医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明
国立社会保障・人口問題研究所は、2010年の国勢調査の確定数に基づく2060年までの全国将来人口推計を2012年1月に発表した。出生中位、死亡中位予測によれば、医療サービスや介護サービスのニーズの高い75歳以上の高齢者数(割合)は、2010年1千419万4千人(11.1%)であったものが、2020年に1千879万人(15.1%)、2030年に2千278万4千人(19.5%)、2040年に2千223万(20.7%)、2050年に2千384万6千人(24.6%)、2060年に2千336万2千人(26.9%)となる。これは、高齢者数は2030年以降にはそれほど増加しないが、出生数が減少するために確実に75歳以上の高齢者割合が増加することになる。
政府が2012年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」には、2025年に「あるべき姿」を実現させるため、医療機関の機能分化を一層進めることが明記されている。具体的には、現在約107万床ある一般病床を高度急性期、一般急性期、亜急性期病床に振り分け、高度急性期に医療資源を重点配分する一方で、急性期、慢性期、在宅医療の連携を強化して患者に過不足のない医療を提供する絵姿を示した。今改定はその「2025年モデル」を強く志向した内容になった。2012年の診療報酬改定では、在宅医療、訪問看護、ターミナルケアへも診療報酬を多く配分し、地域包括ケアの後押しをしている。
今後、社会保障費の伸びを抑制することは急務であることから効率的なケアを行っていくことが求められるが、質を犠牲にしない創意工夫が必要である。高齢者にとって質が高くしかも効率的なケアを行っていくために最も重要なのは医療・介護サービスの理念であろう。それは、かつてのように高齢者を収容し、管理するものではなく、「高齢者の運動機能、口腔機能、栄養状態を高め、さらには認知・情緒面の改善を通じて、生活機能を高め、生きがいや自己実現の達成に向けた支援」を行う姿勢であろうと思われる。筆者らは、日本型CCRCを「高齢者が年を経るごとに変わっていくニーズに応じて、継続して同じ場所で生活ができるように、介護の機能をもつ高齢者住宅、リハビリ施設、介護事業所、地域交流センター、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションなどを備えた複合施設を核として、他の自立型、支援型、介護型の高齢者住宅とネットワークを結び、地域包括ケアの機能も果たす一連のシステムである」と定義し、これらが地域包括ケアシステムを支えていくことがひとつの解決策になるのではないかと考えている。
日本型CCRCは、地域包括ケアシステムの要件である、①医療との連携強化、②介護サービスの充実強化、③予防の推進、④見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護、⑤高齢期になっても住み続けられる高齢者住宅の整備を満たすことができる。日本型CCRCでは高齢者に新しい安心・安全なライフスタイル(生活様式)や予防サービスを提供でき、生活の質を向上させることができる。また、高齢者が、脳梗塞、心筋梗塞等が発症し、急性期病院に入院した場合でも、CCRCで受け入れがスムーズに行えるために、医療資源の効率的な利用につなげることができるからである。
複合施設を核として、他の自立型、支援型、介護型の高齢者住宅とネットワークを結ぶ日本型CCRCモデルは、24時間安心してケアが受けられる地域包括ケアのシステムに対するアイデアを提供するものである。24時間の訪問サービス体制を実現可能なものにするためには、介護サービスは主として日勤帯に行い、深夜には必要不可欠な在宅医療・看護サービスを主として提供していくことにする方が望ましいと思われる。また、地域包括ケアの質を上げるためには、介護分野で働く人材の教育が必要となると考えられる。
高齢者を支援するということは高齢者との共同作業行うことであるので、まず、高齢者をよく理解することから出発すべきである。高齢者の立場にたって、「相手が何を望んでいるかというところに関心を持ち、どのように支援したら、それを満たすことができるか」ということに焦点づける必要がある。その潜在的なニーズを満すためには、組織的な仕組みづくりが必要である。介護分野のスタッフが、介護技術とともに、マネジメント、マーケティングの知識を持つことにより、介護分野の仕事の生産性を向上していけるものと考える。