« 第8回 病院経営の質向上研究会のお知らせ(終了しました) | メイン | 第10巻第1号(2015年10月号) »

第10巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

  本年8年ぶりに米国のCCRC(Continuing Care Retirement Community)を訪れた。加えて、ARC (Active Retirement Community)も訪問することができた。平成24年度のわが国の後期高齢者医療費は13兆7,047億円であり、後期高齢者1人あたり919,529円 であった。この年度の後期高齢者数は1,490万であったが、2025年には後期高齢者は2,179万人になると推定されている。このまま後期高齢者の医療費の増加が続けば、わが国の医療保険制度は破綻することが予想されるが、筆者はCCRCの仕組みを高齢者ケアに導入することが解決策になると主張してきた。

  CCRCとは、健康支援にニーズを持つ高齢者が移り住み、自立の段階から介護・医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービス等を受けながら、疾病・障害予防活動、生涯学習・社会活動等に参加し、できるだけ長く自立した生活をすることを可能にする共同体のことである。内科医1人と正看護師2人が専任で診療の責任をもつCCRCでは、米国の平均よりも、居住者が1/2から1/3のより少ない入院や救急センター受診ですんでおり、病院で死亡する確率も1/5以下であることが明らかにされている(Julie P.W. Bynum, Alice Andrews, Sandra Sharp, Dennis McCollough, and John E. Wennberg, Fewer Hospitalizations Result When Primary Care Is Highly Integrated Into A Continuing Care Retirement Community, Health Affairs , 2011;30:5).

  CCRCが医療費に与える要因は多面的である。まず、自立を支える仕組みにある。身体や心の疾病や障害の予防には運動、食事、学習が重要であるが、CCRCではこれらが配慮されている。運動については、スイミングプール、テニスコート、フィットネスクラブ、卓球場、ビリアードなどが整備されている。食事については、複数のレストランで好みの料理を定額の利用料で毎日楽しむことができるようになっている。学習については、多くのCCRCで大学と連携し、歴史、自然科学、芸術、音楽等のコースを勉強することが可能である。また、ほとんどのCCRCは立派な図書館を持っているが、蔵書は住民の寄付から得られており、運営も住民が行っている。その他、大学同様、スポーツ、音楽、美術、ボランテイア、園芸などのサークルがあり、活発に活動されている。その他には、映画上映、美術館の訪問ツアー、コンサート、ウオーキングツアーなどのイベントが提供されている。廃用症候群を避け、自立を続けるためには、毎日楽しく、好きな活動を続けることが必要であることが実感できる。

  次に重要であることはクリニックが併設されていることである。米国は、後期高齢者の30%以上は4つ以上の慢性疾患を持っている。CCRCではかかりつけ医が、継続的で包括的な医療を提供している。また、CCRC内にクリニックがあることで、病気になってもすぐ医療を受けられる。たとえば、日中に緊急事態が生じた場合、医師は数分でかけつけてくれるし、夜もしくは週末に問題が生じた場合もオンコールで対応してくれるなお、アクセスが良いことのメリットは計り知れない。

  最後に、CCRCの支援型住まいと介護型住まいは、リハビリや点滴などを行えるヘルスケアセンターの機能がある複合施設でもあることを挙げたい。支援型住まいには急性期病院に入院した後のリハビリを行う短期のリハビリテーションユニット、介護型住まいには認知症のケアを行うメモリーケアユニットも含まれる。CCRCで心筋梗塞、脳卒中に罹患すると救急車で急性期病院に運ばれるが、数日でCCRCに帰ってくるのが一般的である。CCRCでは急性期病院を退院した患者には、専門的看護あるいは理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションが提供されるが、費用は高齢者の保険であるメデイケアで賄われる。また、CCRCで提供される在宅ケアも、メディケアから支払いを受けている。余命6 ケ月以内と診断され、通常の治療を中止してホスピスケアを受ける場合も、メディケアから給付される。ホスピスケアには、苦痛緩和、カウンセリング、理学療法、看護サービス、症状管理などが含まれる。このようにCCRCでは、メディケアを活用して継続的にケアのマネジメントを行い、”Aging in Place”を実現するシステムとなっている。

  わが国では長期入院による廃用症候群、望まない延命医療によるQOLの低下、複数薬剤の投与による有害事象が問題となっている。CCRCでなくともコミュニテイで自立支援を行い、かかりつけ医が、継続的で包括的な医療を提供することにより費用を削減し、高齢者のQOLを向上させることに貢献することを期待したい。