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第13巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

 医療介護総合確保推進法では、2025 年に目指すべき医療提供体制が地域医療構想によって定められるようになった。2015 年 6 月 15 日、 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会から第 1 次報告が発表され、2025 年の推計結果では、 必要病床数は 115 ~ 119 万床、 高度急性期は 13 万床、 急性期は 40.1 万床、 回復期 37.5 万床、 慢性期 24.2 ~ 28.5 万床とされた。地域医療構想調整会議では、必要病 床数の削減の方向性の糸口が見つからないと言われているが、一方、病院調査によれば一般病棟入院基本料を請求している病床数は、確実に減少している。7:1、10:1、13:1、15:1、合計病床数は、2011 年11 月には、それぞれ、381,817、223,510、29,903、55,717、690,947 であったが、2017 年 11 月には、それぞれ、355,528、156,919、20,020、37,122、569,589 と減少している。7:1、10:1、13:1、15:1、合計病床数の減少率は、それぞれ、6.9%、29.8%、33.1%、33.4%、17.6% に及んでいる。しかも、これらのすべての病床の稼働率は低下傾向にある。一部の病床は特定入院基本料、とりわけ、地域包括病棟基本料を請求するようになったと思われるが、入院ニーズの低下は明らかである。

 これらの入院のニーズ減少の理由は、多様な要因から成ると思われるが、ここではそれらのなかから 7点を挙げてみたい。まず、第 1 に、国民が健康になってきたことが挙げられる。主要な疾患の割合を占めてきた、心循環器疾患、消化器疾患などの罹患率が低下しているので、当然のことながら入院件数は減少する。第 2 に、入院で行われてきた診療が外来で行われるようになったからである。たとえば、癌の放射線療法や化学療法は外来で行われるようになってきている。第 3 に、入院日数による診療報酬の逓減率が大きくなってきたことである。そのため、病院の経営を考えると入院の長期化が避けられるようになった。第 4 に、介護保険サービスの事業拡大に伴い、医療機関が介護サービスを代替することが減少したことである。第 5 に、在宅サービスや訪問看護サービスを行う医療機関が増えたために、地域で医療を行うことが増えてきたので、入院が避けられる、あるいは入院の長期化が避けられるようになったことである。第6 に、リーズナブルな価格の有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が増え、地域での高齢者の受け皿が増え、社会的入院が減少しているからである。最後に、患者自己負担が上昇してきており、それが受診率や入院日数にも反映されてきていると思われる。

 いずれにせよ、医療機関関係者はこれらの変化に対応する必要がある。わが国の病床は多すぎるのは明らかである。病床が多すぎることで、高齢者の入院や在院日数を増やし、医療の効率と質の低下をもたらし、医療スタッフを疲弊させているのも事実である。むしろ、急性期病院を集約し、常時、当直医が 10 人以上いるようすれば、救急車のたらい回しが起こる危険性はなくなると思われる。そうであれば、個々の医療機関はどう取り組んでいけばいいのであろうか。第 1 に、それぞれの医療機関は対応すべき、 医療のレベルと対象とする地域を明確にしなければならない。 医療のレベルとは、高度急性期、急性期、回復期、慢性期、外来、在宅医療、訪問看護、終末期医療からなる。そして、地域とは、患者の立場から、日常生 活圏、一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏、広域に分類できる。第 2 に、病床をもつ医療機関であれば、対応する疾患、それらの疾患別の必要な病床数を決定することである。これは過去の入院患者の DPC データを活用することによって、推計可能である。第 3 に、今後のその地域の人口減少や疾病の罹患率、疾病別の医療圏のシェア、医療スタッフの充足度などを考慮し、病棟の転換、病床数の削減、外来・在宅機能の拡充で、この問題を乗り切れるかどうかを検討しなければならない。そして、最後に、医療機関の統合も考慮すべきである。その場合は、地域医療連携推進法人制度の創設を念頭に入れるべきである。

 入院治療ニーズが減少していくなか、生活習慣病、メンタルヘルスの疾患、高齢者の変性疾患が増えている。生活習慣病、メンタルヘルスの疾患、高齢者の変性疾患は治癒しない。むしろ、本人や家族が疾病や障害を生活や人生に位置付けて、なんとかやりくりしていくことが重要となる。病床を持つ医療機関も地域包括ケアシステムをビジョンに入れて、構築に協働しなければならない時代になってきている。