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第14巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

  本年 9 月 26 日に開催された厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織「地域医療構想に関するワーキンググループ」において , 全国 424 の公立病院・公的病院等について ,「公立・公的病院等でなければ果たせない機能を果たしているのか」という点について再検証を求め , 必要に応じて機能分化やダウンサイジングなどを含めた再編・統合の検討を求める方針が固まったとの報道がなされた . これらの医療機関は ,(1)「がん , 心疾患 , 脳卒中 , 救急 , 小児 , 周産期」医療などの診療実績が特に少ない ,(2)類似の機能を持つ病院が近接していることから抽出したとされている . すでに、2015 年 6月 15 日には、「医療介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査委員会第 1 次報告」では , 現在 , 19.1 万床ある高度急性期病床 ,58.1 万床ある急性期病床を 2025 年までに , それぞれ , 13.0 万床 ,40.1万床に削減する方針が出されたが , その後 , 全国の各医療圏で定期的に開かれた地域医療構想調整会議において , 病床削減に関して , 具体的な取り組みが進まなかったことから , このような発表がなされたものと思われる。

   我が国では , 入院を要するような疾病である心筋梗塞や脳卒中の罹患率は減少してきており , 悪性腫瘍などの治療は外来化学療法や外来放射線療法など外来で治療されるようになっている . そのため , 入院医療のニーズは減少してきている . 病床数が過剰なままであると , 病床が医療ニーズの高くない高齢者の介護の受け皿となる傾向にあり , 貴重な社会保障費が効率的に使われないことを憂慮しての判断であるからと思われる . 一方 , これらの発表に対して , 住民や医療機関側からは反対の意見が出ている . 住民にとっては , 近くの医療機関が統廃合されるは不安であろうし , また , 医療機関側からすれば , 投資した医療施設や機器などに対する負債が返せない可能性や職員を解雇しなければならない事態となる。

  わが国では , 老人医療費無償化をきっかけに高齢者の社会的入院が広がり , 入院の介護施設化により , 老人医療費が大幅に増える弊害が起こっている . 老人医療費無償化が始まった 1973 年度には 4,289 億円だった老人医療費が 1999 年度には 11 兆 8,040 億円 ,2016 年の 70 歳以上医療費は ,20 兆 1,395 億円にまで膨らんでいる . また ,2016 年度の 1 人当たりの医療費は 70 歳未満の被保険者が 20 万 8703 円 , 被扶養者が 16 万 2257 円であるのに対して ,70 歳以上は 58 万 2567 円 ,75 歳以上を対象とした後期高齢者医療制度の被保険者は 93 万 2611 円に上昇する 。

  高齢者 1 人当たり医療費が高いのは , 病気や障害をもった 1 人暮らしの高齢者の受け皿が地域にないことが影響していると考えられており , 厚生労働省は , 2025 年を目指して , 地域医療構想で病床数を適正化するとともに ,「病院完結型医療モデル」から 「地域完結型医療モデル」への転換を目指してきた .「地域完結型医療モデル」は , 高齢者が能力に応じた日常生活をおくることを可能にし , 社会的入院にみられるような過剰な医療を排除することが可能になるからである . また , 我々は , 生活支援サービス , 予防サービス , 医療サービス , 介護サービスを提供する複合施設を核にして複数の高齢者住宅をネットワークで支援する「日本型 CCRC」を構築することを提案してきた . 平成 30 年度の地域包括ケア研究会報告書では , 「小規模多機能型居宅介護」, 「看護小規模多機能型居宅介護」,「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を ,一体的な提供体制を支える中核的サービス形態であるとしている .「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は , 24 時間安心して , 連絡訪問が受けられるサービスであり , 本人や家族の不安に対応できる . 「小規模多機能型居宅介護」は , 住み慣れた環境で最期まで受けられるようにするサービスであり ,「看護小規模多機能型居宅介護」は , がんや難病など医療ニーズの高い高齢者が自宅で療養を続ける助けになる . これらの地域密着・統合型サービスは , 月当たりの包括型の介護報酬を介護提供者に対して支払うことで , 要介護者に継続的なケアを提供することを可能とするものである。

  社会保障制度を維持 , 発展させていくためにも , 高齢者の自立を支援していくという理念のもと , 質が高く , コストがかからない高齢者ケアの仕組みを構築していかなくてはならないが , 「日本型 CCRC」のモデルに , 地域密着・統合型サービスを組み込んでいくことも , 重要な選択肢になりうると考えている。