« 第15巻第1号(2020年10月号) | メイン

第15巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

   2020 年, 世界を震撼させている新型コロナウイルスは, 日本では1 月15 日に国内初の症例が確認された. 安倍晋三首相は4 月7 日, 東京, 神奈川, 埼玉, 千葉, 大阪, 兵庫, 福岡など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を発令した. 過去に例のない緊急事態宣言を発令したが, 重症急性呼吸器症候群(SARS)と異なり, 軽症, 無症状の症例が多いことも予防対策を困難にしている. 患者数は6 月以降減少傾向になったものの,7 月に入って再び急増した. この感染症は, 高齢者などが感染すれば重症化する可能性が高い. 重症者の集中治療室(ICU)治療には2週間以上かかり, ひとたび重症者が増加すれば, 医療崩壊の危機にさらされる.。

  西村康稔経済再生担当相は7月26 日, 新規感染者数が再び増加している状況を踏まえて, 時差通勤の推進や大人数の会合自粛, 各企業へ社員のテレワーク率70%を目指すよう経済界へ要望する考えを明らかにした. 一方, 政府首脳は緊急事態宣言の再発令には慎重姿勢を示した. 若い世代の感染者が多く, 重症者が少ないため,「社会経済活動を全面的に縮小させる状況にはない」とした. こうした判断は, 新型コロナ対策の予防効果と経済への影響のバランスをとったものと思われる.

  日本病院会, 全日本病院協会, 日本医療法人協会の3 団体が5 月18 日に公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」は, 新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた病院では,2020年4 月の医業利益率はマイナス11.8%に, 病棟を閉鎖せざるを得なかった病院では, 同じくマイナス16.0%にまで落ち込んでいると報告した. また, 日本医師会は5 月20 日, 新型コロナウイルスの感染拡大が医療機関の経営に与えた影響について,2020 年3 月の診療所の入院外総件数・総日数・総点数はそれぞれ対前年比で10.9% ,10.7% ,9.4%減少, 初診料算定回数の対前年比は, 病院で20.3% , 診療所で29.0%減少, 再診料または外来診療料の算定回数は, 病院で5.5% , 診療所で9.1%減少であったことを報告している. なかでも, 小児科の受診が目に見えて急減したことも報告されたが, 新型コロナウイルスの予防のための手洗い, マスク着用, 三密を避けることなどが, 他の感染症を予防したことが一因とされている. なお, わが国においては, 自治体の補助により未就学児の医療費の自己負担はほとんどなくなっているが, 過剰受診がおこっている傾向も報告されている. 医療機関を受診すると新型コロナウイルスに罹患する可能性があったために,「不急不要の受診」が控えられたということも影響したと考えられる.

  OECD ヘルスデータによれば, 日本の1人当たりの外来受診頻度は年間12.8 回. これに対して, アメリカは4.0 回, イギリスは5.0 回, フランスは6.3 回と報告されており, 日本人が医療機関を受診する頻度は国際的にみても著しく高かったが,「病気になったら病院に行けばいい」という考え方から「病気を自ら防ぐ」という考え方へのパラダイムシフトの契機になる可能性もある.

  さらに, グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンが全国約400 病院の3月と4月の医療データを分析したところ, 4月の肺炎による入院は前月比マイナス78.0% , ウイルス性腸炎による入院はマイナス73.0%と感染症による入院が大幅減になった. 感染症による入院患者の大半は高齢者だが, 今までは軽症でも社会的な理由から高齢者が入院していたケースがあった. 高齢者が新型コロナに感染すると重症化すると伝わり, 高齢者とその家族が必ずしも必要ではない入院を避けたことが感染症の入院減少にも影響しているとみられる.

  医療機関では入院稼働率の低下がより財務には響いている.6 月以降は回復傾向にあるものの, 高齢者の不要不急の入院は低下していくと思われる. したがって,「入院・入所」から,「地域」への流れは, 新型コロナの影響で加速するであろう. 医療機関の経営は, 今後は, 収益ではなく, 利益に重きを置くことが求められる. 入院では生産性に重きを置き, 病床削減を恐れないこと, 入院外では遠隔診療の幅を広げていくこと, 介護では, 感染予防対策をアピールし, 遠隔介護を積極的に応用し, 包括型地域密着サービスなど安定収入が得られるサービスを拡大していくことなどがヒントになるであろう.