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第16巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

 「地域包括ケア研究会」が、「地域共生社会」の実現に言及したのは、第 6 回の報告書(17 年 3 月公表) が初めてであった。安倍政権が 2016 年 6 月に「ニッポン 1 億総活躍プラン」を閣議決定して「地域共生社会」 の実現を掲げ、7 月には厚労省が「地域共生社会実現本部」を立ち上げた影響を受けている。 従来の縦割 り行政を改め、年齢や高齢・障害・貧困などの分野を問わずに誰でもが「共生」を目指し、全体を見通し ながら取り組むべきだとされる。そこで「我が事、丸ごと」がスローガンとして打ち出された。

 人びとの暮らしや地域のあり方が多様化している中 、地域に生きる一人ひとりが尊重され、多様な経 路で社会とつながり参画することで、その生きる力や可能性を最大限に発揮できる「地域共生社会」の実 現を目指す、地域共生社会と地域包括ケアシステムの関係について整理すると 「地域共生社会」とは、 今後 , 日本社会全体で実現していこうとする社会全体のイメージやビジョンを示すものであり , 高齢者分 野 を出発点として改善を重ねてきた「地域包括ケアシステム」は「地域共生社会」を実現するための「シ ステム」「仕組み」であるとまとめてある。

 2040 年には、人口減少・少子高齢化がさらに進展し、単身世帯が 4 割、 就職氷河期世代の高齢化等の 状況にも直面、地縁・血縁による助け合い機能が低下する中、従来のタテワリの制度では複合化・複雑化 した生活課題への対応が困難となる。このため ,
①丸ごと相談(断らない相談)の実現
②地域共生に資する取組の促進
③高齢者も障害者も利用できるサービスの推進について検討がなされている。

 そして、2017 年 5 月 26 日に、「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法 律」において , 「訪問介護 , 通所介護 , 短期入所生活介護等について、高齢者と障害児・者とが共に利用 できるよう成立した制度」である「共生型サービス」が設立された。そのため、すでに、高齢者と障害児・ 者とが同じ場でデイ・サービスを受けていることが見られるようになっている。

 これらは、2019 (令和元)年9月から開催している全世代型社会保障検討会議では、人生 100 年時代の 到来を見据えながら、お年寄りだけではなく、子どもたち、子育て世代、さらには現役世代まで広く安 心を支えていくため、年金、労働、医療、介護など、社会保障全般にわたる持続可能な改革を検討して いることと、同じ文脈である。

 高齢者を対象としていた地域包括ケアシステムを、全世代を対象とする地域共生社会に発展させること は、社会保障制度の財源を拡大させ、スケールメリットによる効率化、質の改善にも繋がると思われる。 地域包括ケアシステムは、 医療や介護が必要なシステムであるが、生活支援システムである、したがっ て、高齢者ばかりか、障害を抱えた人、失業者、子育てに支援が必要な人、社会的に排除された人を含 めたすべての支援の必要な人をバラバラなサービスや現金給付ではなく、地域包括ケアシステムという形 で支援する方が、効率性も質も担保できると考えたのであろう。

 地域共生社会で強調されているのは相談機能と多職種連携である。これらは、社会福祉事務所より地 域包括支援センターが進んでおり、統合のメリットもありうるだろう。地域共生社会の機能として、生 涯にわたって「学びの場」「居場所」「役割」をもつことの仕組みを構築、どうすれば、社会的包摂が 可能になるのかが検討されなければならないであろう。