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第18巻 巻頭言

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

 地域医療構想とは, 団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目指して, 必要とされる病床数を医療機能 ごとに推計した上で, 各地域に設置される地域医療構想調整会議を通じて病床数の調整方針を定め, 効率 的な医療提供体制を目指す一連の取り組みであった. 医療機能を「高度急性期, 急性期, 回復期, 慢性期」 の4つに区分し, その供給数を調整し, 各地域において, 患者がその病状に見合った機能の医療サービスを 適切に受けられる体制を維持することが, 地域医療構想の目的とされていた. しかしながら, 目的とされた 高度急性期, 急性期病床の削減や回復期病床の増床は思うように進まず, 医療機能の分化や連携も進んで はいない.

 厚労省は,23年度からは「外来機能報告制度」,25年からは「かかりつけ医機能報告制度」を開始し, 外来 から医療機能の分化や連携を進めようとしている.「外来機能報告制度」では, 医療資源を重点的に活用する 外来が可視化される. それによって, 地域の基幹的な病院と連携する病院群がどのように役割分担をして いくかという議論が求められている. そして,「かかりつけ医機能報告制度」においては, 医療機関は, その 有する機能を都道府県知事に報告するとともに, 都道府県知事はその情報を国民・患者に分かりやすく提 供することになる. たとえば, 入退院時の支援, 連携, 休日・夜間の対応などの具体的内容が求められる.「か かりつけ医機能」としては, 患者さんの継続的な医学管理, 日常的によくある疾患への幅広い対応, 入退院 時の支援, 休日・夜間の対応, 在宅医療, 介護サービス等との連携などが想定されている.「かかりつけ医」 は主治医として日常診療を行い, 入院や入所が必要な場合は病院と在宅, 病院と施設, 施設と在宅間などで 必要とされる入退院時・ 入退所時の連携, そして長期的に発生する介護や生活支援も含む包括的なサービ スが求められる. そして, 緊急対応や在宅看取りまで含めた支援・ 連携に必要な情報共有を行い, 患者さん の意思を尊重した上でのサービスを統合する機能が求められよう.

 筆者は日本の医療においてはかかりつけ医機能が不十分であることが大きな問題と考えてきた. かかり つけ医が患者さんのニーズに対応し, 医療機関, 介護護事業者, 行政などを紹介し, 緊急対応や多職種連携 を行うことが不十分だと考えてきた. この問題を解決するために考えたのが,「統合地域ヘルスケアシステ ム(ICHS:Integrated Community Healthcare System)」であり、その定義は,「かかりつけ医機能を基盤とし, 専門医療, 入院医療, 在宅医療, 介護, 行政等のサービスとを統合し, 地域包括ケアシステムにおける医療 ニーズの機能を満たし,ICT を活用し, 住み慣れたコミュニテイで最期まで暮らせること(Aginginplace) を支援する機能」である. すなわち, 外来の総合診療部もしくは一般内科で行う「かかりつけ医機能」を基 盤とし, 地域包括ケア病棟, 回復期リハビリ病棟, ホスピス病棟, 循環器外来, 糖尿病外来及び在宅医療部 門を自院で展開するモデルである.ICHSではICTを活用し情報を共有しつつ, 緊急対応や多職種連携を行う ことが, 効率の面でも質の向上の面でも必要不可欠である.

 わが国では従来, 診療所が「かかりつけ医機能」を果たすべきであるとされてきた. しかし, スタッフの 少ない診療所では,「かかりつけ医機能」のなかで担当できる機能を特定し, 他の機能は連携で対応してい くことが現実的である. 一方,200床未満の病院が「かかりつけ医機能」を果たす場合, マンパワーが多い分, 在宅の患者さんの緊急対応, 看取り, 水準の高い訪問看護, 入院の必要な患者の後方支援も対応可能であ る. また,200床以上の病院であっても, 系列の診療所に「かかりつけ医機能」を持たせ, 必要に応じて病院 の専門外来や入院機能を活用することも可能である. さまざまな医療機関がICHS に取り組むことで, 今日 的な医療問題の解決のために役割を果たすことができると考えられる.