ご挨拶

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第15巻 巻頭言

Date
2021-01-25 (Mon)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

   2020 年, 世界を震撼させている新型コロナウイルスは, 日本では1 月15 日に国内初の症例が確認された. 安倍晋三首相は4 月7 日, 東京, 神奈川, 埼玉, 千葉, 大阪, 兵庫, 福岡など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を発令した. 過去に例のない緊急事態宣言を発令したが, 重症急性呼吸器症候群(SARS)と異なり, 軽症, 無症状の症例が多いことも予防対策を困難にしている. 患者数は6 月以降減少傾向になったものの,7 月に入って再び急増した. この感染症は, 高齢者などが感染すれば重症化する可能性が高い. 重症者の集中治療室(ICU)治療には2週間以上かかり, ひとたび重症者が増加すれば, 医療崩壊の危機にさらされる.。

  西村康稔経済再生担当相は7月26 日, 新規感染者数が再び増加している状況を踏まえて, 時差通勤の推進や大人数の会合自粛, 各企業へ社員のテレワーク率70%を目指すよう経済界へ要望する考えを明らかにした. 一方, 政府首脳は緊急事態宣言の再発令には慎重姿勢を示した. 若い世代の感染者が多く, 重症者が少ないため,「社会経済活動を全面的に縮小させる状況にはない」とした. こうした判断は, 新型コロナ対策の予防効果と経済への影響のバランスをとったものと思われる.

  日本病院会, 全日本病院協会, 日本医療法人協会の3 団体が5 月18 日に公表した「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査」は, 新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた病院では,2020年4 月の医業利益率はマイナス11.8%に, 病棟を閉鎖せざるを得なかった病院では, 同じくマイナス16.0%にまで落ち込んでいると報告した. また, 日本医師会は5 月20 日, 新型コロナウイルスの感染拡大が医療機関の経営に与えた影響について,2020 年3 月の診療所の入院外総件数・総日数・総点数はそれぞれ対前年比で10.9% ,10.7% ,9.4%減少, 初診料算定回数の対前年比は, 病院で20.3% , 診療所で29.0%減少, 再診料または外来診療料の算定回数は, 病院で5.5% , 診療所で9.1%減少であったことを報告している. なかでも, 小児科の受診が目に見えて急減したことも報告されたが, 新型コロナウイルスの予防のための手洗い, マスク着用, 三密を避けることなどが, 他の感染症を予防したことが一因とされている. なお, わが国においては, 自治体の補助により未就学児の医療費の自己負担はほとんどなくなっているが, 過剰受診がおこっている傾向も報告されている. 医療機関を受診すると新型コロナウイルスに罹患する可能性があったために,「不急不要の受診」が控えられたということも影響したと考えられる.

  OECD ヘルスデータによれば, 日本の1人当たりの外来受診頻度は年間12.8 回. これに対して, アメリカは4.0 回, イギリスは5.0 回, フランスは6.3 回と報告されており, 日本人が医療機関を受診する頻度は国際的にみても著しく高かったが,「病気になったら病院に行けばいい」という考え方から「病気を自ら防ぐ」という考え方へのパラダイムシフトの契機になる可能性もある.

  さらに, グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンが全国約400 病院の3月と4月の医療データを分析したところ, 4月の肺炎による入院は前月比マイナス78.0% , ウイルス性腸炎による入院はマイナス73.0%と感染症による入院が大幅減になった. 感染症による入院患者の大半は高齢者だが, 今までは軽症でも社会的な理由から高齢者が入院していたケースがあった. 高齢者が新型コロナに感染すると重症化すると伝わり, 高齢者とその家族が必ずしも必要ではない入院を避けたことが感染症の入院減少にも影響しているとみられる.

  医療機関では入院稼働率の低下がより財務には響いている.6 月以降は回復傾向にあるものの, 高齢者の不要不急の入院は低下していくと思われる. したがって,「入院・入所」から,「地域」への流れは, 新型コロナの影響で加速するであろう. 医療機関の経営は, 今後は, 収益ではなく, 利益に重きを置くことが求められる. 入院では生産性に重きを置き, 病床削減を恐れないこと, 入院外では遠隔診療の幅を広げていくこと, 介護では, 感染予防対策をアピールし, 遠隔介護を積極的に応用し, 包括型地域密着サービスなど安定収入が得られるサービスを拡大していくことなどがヒントになるであろう.

第14巻 巻頭言

Date
2020-01-31 (Fri)
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ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

  本年 9 月 26 日に開催された厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」の下部組織「地域医療構想に関するワーキンググループ」において , 全国 424 の公立病院・公的病院等について ,「公立・公的病院等でなければ果たせない機能を果たしているのか」という点について再検証を求め , 必要に応じて機能分化やダウンサイジングなどを含めた再編・統合の検討を求める方針が固まったとの報道がなされた . これらの医療機関は ,(1)「がん , 心疾患 , 脳卒中 , 救急 , 小児 , 周産期」医療などの診療実績が特に少ない ,(2)類似の機能を持つ病院が近接していることから抽出したとされている . すでに、2015 年 6月 15 日には、「医療介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査委員会第 1 次報告」では , 現在 , 19.1 万床ある高度急性期病床 ,58.1 万床ある急性期病床を 2025 年までに , それぞれ , 13.0 万床 ,40.1万床に削減する方針が出されたが , その後 , 全国の各医療圏で定期的に開かれた地域医療構想調整会議において , 病床削減に関して , 具体的な取り組みが進まなかったことから , このような発表がなされたものと思われる。

   我が国では , 入院を要するような疾病である心筋梗塞や脳卒中の罹患率は減少してきており , 悪性腫瘍などの治療は外来化学療法や外来放射線療法など外来で治療されるようになっている . そのため , 入院医療のニーズは減少してきている . 病床数が過剰なままであると , 病床が医療ニーズの高くない高齢者の介護の受け皿となる傾向にあり , 貴重な社会保障費が効率的に使われないことを憂慮しての判断であるからと思われる . 一方 , これらの発表に対して , 住民や医療機関側からは反対の意見が出ている . 住民にとっては , 近くの医療機関が統廃合されるは不安であろうし , また , 医療機関側からすれば , 投資した医療施設や機器などに対する負債が返せない可能性や職員を解雇しなければならない事態となる。

  わが国では , 老人医療費無償化をきっかけに高齢者の社会的入院が広がり , 入院の介護施設化により , 老人医療費が大幅に増える弊害が起こっている . 老人医療費無償化が始まった 1973 年度には 4,289 億円だった老人医療費が 1999 年度には 11 兆 8,040 億円 ,2016 年の 70 歳以上医療費は ,20 兆 1,395 億円にまで膨らんでいる . また ,2016 年度の 1 人当たりの医療費は 70 歳未満の被保険者が 20 万 8703 円 , 被扶養者が 16 万 2257 円であるのに対して ,70 歳以上は 58 万 2567 円 ,75 歳以上を対象とした後期高齢者医療制度の被保険者は 93 万 2611 円に上昇する 。

  高齢者 1 人当たり医療費が高いのは , 病気や障害をもった 1 人暮らしの高齢者の受け皿が地域にないことが影響していると考えられており , 厚生労働省は , 2025 年を目指して , 地域医療構想で病床数を適正化するとともに ,「病院完結型医療モデル」から 「地域完結型医療モデル」への転換を目指してきた .「地域完結型医療モデル」は , 高齢者が能力に応じた日常生活をおくることを可能にし , 社会的入院にみられるような過剰な医療を排除することが可能になるからである . また , 我々は , 生活支援サービス , 予防サービス , 医療サービス , 介護サービスを提供する複合施設を核にして複数の高齢者住宅をネットワークで支援する「日本型 CCRC」を構築することを提案してきた . 平成 30 年度の地域包括ケア研究会報告書では , 「小規模多機能型居宅介護」, 「看護小規模多機能型居宅介護」,「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」を ,一体的な提供体制を支える中核的サービス形態であるとしている .「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」は , 24 時間安心して , 連絡訪問が受けられるサービスであり , 本人や家族の不安に対応できる . 「小規模多機能型居宅介護」は , 住み慣れた環境で最期まで受けられるようにするサービスであり ,「看護小規模多機能型居宅介護」は , がんや難病など医療ニーズの高い高齢者が自宅で療養を続ける助けになる . これらの地域密着・統合型サービスは , 月当たりの包括型の介護報酬を介護提供者に対して支払うことで , 要介護者に継続的なケアを提供することを可能とするものである。

  社会保障制度を維持 , 発展させていくためにも , 高齢者の自立を支援していくという理念のもと , 質が高く , コストがかからない高齢者ケアの仕組みを構築していかなくてはならないが , 「日本型 CCRC」のモデルに , 地域密着・統合型サービスを組み込んでいくことも , 重要な選択肢になりうると考えている。

 

第13巻 巻頭言

Date
2018-12-28 (Fri)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

 医療介護総合確保推進法では、2025 年に目指すべき医療提供体制が地域医療構想によって定められるようになった。2015 年 6 月 15 日、 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会から第 1 次報告が発表され、2025 年の推計結果では、 必要病床数は 115 ~ 119 万床、 高度急性期は 13 万床、 急性期は 40.1 万床、 回復期 37.5 万床、 慢性期 24.2 ~ 28.5 万床とされた。地域医療構想調整会議では、必要病 床数の削減の方向性の糸口が見つからないと言われているが、一方、病院調査によれば一般病棟入院基本料を請求している病床数は、確実に減少している。7:1、10:1、13:1、15:1、合計病床数は、2011 年11 月には、それぞれ、381,817、223,510、29,903、55,717、690,947 であったが、2017 年 11 月には、それぞれ、355,528、156,919、20,020、37,122、569,589 と減少している。7:1、10:1、13:1、15:1、合計病床数の減少率は、それぞれ、6.9%、29.8%、33.1%、33.4%、17.6% に及んでいる。しかも、これらのすべての病床の稼働率は低下傾向にある。一部の病床は特定入院基本料、とりわけ、地域包括病棟基本料を請求するようになったと思われるが、入院ニーズの低下は明らかである。

 これらの入院のニーズ減少の理由は、多様な要因から成ると思われるが、ここではそれらのなかから 7点を挙げてみたい。まず、第 1 に、国民が健康になってきたことが挙げられる。主要な疾患の割合を占めてきた、心循環器疾患、消化器疾患などの罹患率が低下しているので、当然のことながら入院件数は減少する。第 2 に、入院で行われてきた診療が外来で行われるようになったからである。たとえば、癌の放射線療法や化学療法は外来で行われるようになってきている。第 3 に、入院日数による診療報酬の逓減率が大きくなってきたことである。そのため、病院の経営を考えると入院の長期化が避けられるようになった。第 4 に、介護保険サービスの事業拡大に伴い、医療機関が介護サービスを代替することが減少したことである。第 5 に、在宅サービスや訪問看護サービスを行う医療機関が増えたために、地域で医療を行うことが増えてきたので、入院が避けられる、あるいは入院の長期化が避けられるようになったことである。第6 に、リーズナブルな価格の有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が増え、地域での高齢者の受け皿が増え、社会的入院が減少しているからである。最後に、患者自己負担が上昇してきており、それが受診率や入院日数にも反映されてきていると思われる。

 いずれにせよ、医療機関関係者はこれらの変化に対応する必要がある。わが国の病床は多すぎるのは明らかである。病床が多すぎることで、高齢者の入院や在院日数を増やし、医療の効率と質の低下をもたらし、医療スタッフを疲弊させているのも事実である。むしろ、急性期病院を集約し、常時、当直医が 10 人以上いるようすれば、救急車のたらい回しが起こる危険性はなくなると思われる。そうであれば、個々の医療機関はどう取り組んでいけばいいのであろうか。第 1 に、それぞれの医療機関は対応すべき、 医療のレベルと対象とする地域を明確にしなければならない。 医療のレベルとは、高度急性期、急性期、回復期、慢性期、外来、在宅医療、訪問看護、終末期医療からなる。そして、地域とは、患者の立場から、日常生 活圏、一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏、広域に分類できる。第 2 に、病床をもつ医療機関であれば、対応する疾患、それらの疾患別の必要な病床数を決定することである。これは過去の入院患者の DPC データを活用することによって、推計可能である。第 3 に、今後のその地域の人口減少や疾病の罹患率、疾病別の医療圏のシェア、医療スタッフの充足度などを考慮し、病棟の転換、病床数の削減、外来・在宅機能の拡充で、この問題を乗り切れるかどうかを検討しなければならない。そして、最後に、医療機関の統合も考慮すべきである。その場合は、地域医療連携推進法人制度の創設を念頭に入れるべきである。

 入院治療ニーズが減少していくなか、生活習慣病、メンタルヘルスの疾患、高齢者の変性疾患が増えている。生活習慣病、メンタルヘルスの疾患、高齢者の変性疾患は治癒しない。むしろ、本人や家族が疾病や障害を生活や人生に位置付けて、なんとかやりくりしていくことが重要となる。病床を持つ医療機関も地域包括ケアシステムをビジョンに入れて、構築に協働しなければならない時代になってきている。

第12巻 巻頭言

Date
2018-02-09 (Fri)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

 この研究会は、1973 年に老人医療費無料化を導入して以来、病気や障害をもつ高齢者は長期間医療機関に入院し、医療機関で亡くなっている現状を改善していこうという目的をもって誕生した。高齢者ケアの改善の指標は、社会的コストを下げることと、高齢者の QOL を高めることであった。現在、政府主導で、地域で高齢者の包括的なケアを行うハード、ソフト、人材を整備し、「地域包括ケアシステム」を構築する政策が進められている。「地域包括ケアシステム」は、「地域包括ケア研究会」によって、2010 年定義され、行政職員、医療・介護関係者に広く知られることになった。理念は、2012 年 2 月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」、2013 年8 月に発表された「社会保障制度改革国民会議」の報告書でも明快に示されている。そして、診療報酬改定でも介護報酬改定でも評価がなされてきた。しかしながら、高齢者ケアの改革の基盤となるべく、「地域包括ケアシステム」の構築は、現実の世界では一向に進んでいない。そこで、その理由と対策について検討してみたい。

 「地域包括ケアシステム」の構築が進んでいない理由として、まず、第一に挙げられるのは、「国民の無理解」である。「社会保障制度改革国民会議」の報告書では、「医療から介護へ」、「病院・施設から地域・在宅へ」の観点から、医療の見直しと介護の見直しは一体となって行い、地域包括ケアシステムづくりを推進していく必要があるとされている。この意味は、今まで医療機関が担っていた介護の役割は地域で介護セクターに担ってもらい、医療機関には医療に特化していただくということであるが、これが理解されていないのである。第二に挙げられるのは、自治体において、「医療の見直しと介護の見直しは一体となって行わなければならない」という認識の欠如である。「地域包括ケアシステム」を機能させるには、地域で高齢者ケアを行うためのハードとソフトが必要であり、サービス提供者間で連携し、入院の必要性を減少させていくということが理解されていないのである。第三に挙げられるのは、医療と介護では自己負担の違いがあり、介護がふさわしいケースであっても、自己負担が安いという理由で医療が選択されることが多いことである。70 歳以上の高齢者では、所得が低ければ、医療では自己負担は月 1 万 5 千円で済む。しかしながら、介護施設や高齢者住宅では、自己負担は 10 数万にはなるからである。第四に挙げられるのは介護報酬が低すぎることである。そのために、介護労働者の賃金を下げざるを得ないし、そうなると人手不足となり、優秀な人材は集まらないことになる。たとえば、看護職は介護の分野においても極めて重要な役割を果たしているが、医療機関の賃金が高いために、介護の分野では人材不足となっている。

 対策であるが、第一の問題に関しては、国民に少子高齢化による社会保障費の逼迫と家族のケア力の低下を理解してもらい、地域で高齢者ケアの基盤を作る必要性を理解していただくことである。第二の問題については、自治体職員には、地域の高齢者ケアの基盤である「地域包括ケアシステム」を構築するためには、適切なハードとソフトが必要であることを理解してもらうことである。すなわち、「高齢者が年を経るごとに変わっていくニーズに応じて、継続して同じ場所で自分の意思が尊重された生活ができるように、介護の機能をもつ高齢者住宅、リハビリテーション施設、介護事業所、地域交流センター、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションなどを、IT を活用したネットワークで結び情報を共有する」仕組みの必要性があることを認識してもらえば、インフラが整備されていく方向になると思われる。第三の問題は、医療ではなく、地域包括ケアの枠組みで、セーフテ イ ネットを作ることで解消できると思われる。そのためには、低所得者への財源を用意する必要がある。 医療に関しては、年間当たりの入院日数の上限を設けることで社会的入院を制限することが可能となる。第四の問題は介護財源の拡大を図ることで問題をクリアーできる。介護保険の財源の半分を占める保険料において第 1 号保険者と第 2 号保険者が人数の割合で負担を行っている。第 2 号保険者の負担は、総報酬割である。介護資源が増えないのは、比較的低所得である第 1 号保険者の保険料を増やせないからである。保険料を支払う単位を都道府県にし、第 1 号保険者も第 2 号保険者も保険料を総報酬割にし、保険料の上限を撤廃すれば、市町村の介護資源の偏りはなくなり、財源を大きくすることが可能となると思われる。

 今後、地域包括ケアシステムを普及させていくためには、問題と対策を、政府、自治体、医療・介護職、国民で共有する必要がある。今後も粘り強く情報を発信していきたい。

第11巻 巻頭言

Date
2016-10-10 (Mon)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

  わが国では、「医療完結型」から「地域完結型」への医療のパラダイムの転換が進行中である。急性期の病気では急性期病床で治療し、回復期病床でリハビリを受けた後は、地域で継続的に生活できるような仕組みを構築することを目指している。その軸になるのが、「地域医療構想」と「地域包括ケアシステムの構築」である。

  「地域医療構想」とは、医療計画において当該構想区域における将来の必要病床数、高度急性期、急性期、回復期、慢性期病床数を定めるものである。2013年の医療施設調査では、病床数は134.7万床、一般病床100.6万床、療養病床34.1万床であった。一方、2015 年6 月15 日、「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」から2025 年の医療機能別必要病床数の推計結果も示されている。それによると、必要病床数は115 ~ 119万床、高度急性期は13万床、急性期は40.1万床、回復期37.5万床、慢性期24.2万~28.5床とされた。加えて介護系施設、高齢者住宅等が29.7~33.7万床となっている。一般病床と療養病床の合計値で既存の病床数と比較すると、2025年に向けて、不足する地域と過剰となる地域がある。大都市部では不足する地域が多く、それ以外の地域では過剰となる地域が多いとされている。なお、「地域包括ケアシステム」とは、「生活上の安全・安心・健康を確保するために、 医療や介護、予防のみならず、福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義されている。

  2016年度の診療報酬改定では、病床機能の再編や地域包括ケアシステム構築の推進のため、様々な改定が打ち出された。急性期入院に対しては、7対1病床が過剰であるとの認識から、7 対1一般病棟入院基本料の施設基準の一つである「重症度、医療・看護必要度」の見直しが行われた。すなわち、前回改定以上に評価項目が厳格化され、看護必要度の基準は、25%以上また、地域包括ケアシステムの構築を目指した退院支援が手厚く評価された。患者や家族と退院後について話し合い、退院支援計画を作成し、チームでカンファレンスを行うことなどが評価された。また、必要に応じてケアマネジャーと連携して情報提供をすれば介護支援連携指導料を、退院直後の重症患者の患家を訪問すれば退院後訪問指導料を算定できることになっている。

  さらに、外来医療の目玉となったのは、「認知症地域包括診療料」と「小児かかりつけ診療料」が新設されたことである。これは2014年に新設された「地域包括診療料」とともに実地医家の総合診療医の役割を強化する狙いがある。また、そのほか、在宅専門診療所などが新設された。地域包括ケアシステム時代では、生活習慣病、変性疾患、精神疾患などの慢性疾患や障害が医療の対象の中心となっており、これらの診療は複雑であり、患者とは継続的な関係性を構築することが求められている。患者が紹介状なしで大病院を受診した際、定額の負担を求める制度が導入された。これにより、大病院から診療所・中小病院への外来移行が促進すると見られる。なお、薬剤の種類を減少させることを目的とした「薬剤総合評価調整管理料」も新設されたのも特徴的である。高齢者の疾病や障害のほとんどは、投薬によって治癒は望むことはできないし、高齢者に多種類の投薬をするのは副作用のリスクを高めるからである。もはや、「病院完結型」のパラダイムでは、患者の医療のニーズ・ウォンツを満たすことはできない。今後求められる医療経営・管理を検討していくには、このような医療サービスのパラダイムの転換を認識することが不可欠である。

  わが国の医療機関は、これまで高齢者の高額療養費の自己負担が低く抑えられてきたために、一般病床を持つ医療機関も慢性期医療を行っている場合が多い。一方、がんの化学療法、放射線療法、脳卒中救急、脳卒中の手術などは地域によっては不足している。なお、PCI(経皮的冠動脈形成術)などは過剰に行われている地域もあるようである。診療の過剰使用、過少使用、誤用を明らかにし、是正していかなければならない。医療は保険と税金など公的な資源で賄われている。透明性と説明責任を担保しているためには、レセプト・DPCデータをモニタリングして医療の需給バランスを明らかにしていくことが、医療資源を公正に効率よく分配していくことの鍵になると思われる。また、レセプト・DPCデータをモニタリングして、医療の質を改善していくシステムの構築を行うことが必要である。すなわち、診療のアクセス、プロセスと結果がデータベース化され、それが医療計画の設計や医療の質の改善に活用される時代を迎えるであろう。

第10巻 巻頭言

Date
2016-01-07 (Thu)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

  本年8年ぶりに米国のCCRC(Continuing Care Retirement Community)を訪れた。加えて、ARC (Active Retirement Community)も訪問することができた。平成24年度のわが国の後期高齢者医療費は13兆7,047億円であり、後期高齢者1人あたり919,529円 であった。この年度の後期高齢者数は1,490万であったが、2025年には後期高齢者は2,179万人になると推定されている。このまま後期高齢者の医療費の増加が続けば、わが国の医療保険制度は破綻することが予想されるが、筆者はCCRCの仕組みを高齢者ケアに導入することが解決策になると主張してきた。

  CCRCとは、健康支援にニーズを持つ高齢者が移り住み、自立の段階から介護・医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービス等を受けながら、疾病・障害予防活動、生涯学習・社会活動等に参加し、できるだけ長く自立した生活をすることを可能にする共同体のことである。内科医1人と正看護師2人が専任で診療の責任をもつCCRCでは、米国の平均よりも、居住者が1/2から1/3のより少ない入院や救急センター受診ですんでおり、病院で死亡する確率も1/5以下であることが明らかにされている(Julie P.W. Bynum, Alice Andrews, Sandra Sharp, Dennis McCollough, and John E. Wennberg, Fewer Hospitalizations Result When Primary Care Is Highly Integrated Into A Continuing Care Retirement Community, Health Affairs , 2011;30:5).

  CCRCが医療費に与える要因は多面的である。まず、自立を支える仕組みにある。身体や心の疾病や障害の予防には運動、食事、学習が重要であるが、CCRCではこれらが配慮されている。運動については、スイミングプール、テニスコート、フィットネスクラブ、卓球場、ビリアードなどが整備されている。食事については、複数のレストランで好みの料理を定額の利用料で毎日楽しむことができるようになっている。学習については、多くのCCRCで大学と連携し、歴史、自然科学、芸術、音楽等のコースを勉強することが可能である。また、ほとんどのCCRCは立派な図書館を持っているが、蔵書は住民の寄付から得られており、運営も住民が行っている。その他、大学同様、スポーツ、音楽、美術、ボランテイア、園芸などのサークルがあり、活発に活動されている。その他には、映画上映、美術館の訪問ツアー、コンサート、ウオーキングツアーなどのイベントが提供されている。廃用症候群を避け、自立を続けるためには、毎日楽しく、好きな活動を続けることが必要であることが実感できる。

  次に重要であることはクリニックが併設されていることである。米国は、後期高齢者の30%以上は4つ以上の慢性疾患を持っている。CCRCではかかりつけ医が、継続的で包括的な医療を提供している。また、CCRC内にクリニックがあることで、病気になってもすぐ医療を受けられる。たとえば、日中に緊急事態が生じた場合、医師は数分でかけつけてくれるし、夜もしくは週末に問題が生じた場合もオンコールで対応してくれるなお、アクセスが良いことのメリットは計り知れない。

  最後に、CCRCの支援型住まいと介護型住まいは、リハビリや点滴などを行えるヘルスケアセンターの機能がある複合施設でもあることを挙げたい。支援型住まいには急性期病院に入院した後のリハビリを行う短期のリハビリテーションユニット、介護型住まいには認知症のケアを行うメモリーケアユニットも含まれる。CCRCで心筋梗塞、脳卒中に罹患すると救急車で急性期病院に運ばれるが、数日でCCRCに帰ってくるのが一般的である。CCRCでは急性期病院を退院した患者には、専門的看護あるいは理学療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションが提供されるが、費用は高齢者の保険であるメデイケアで賄われる。また、CCRCで提供される在宅ケアも、メディケアから支払いを受けている。余命6 ケ月以内と診断され、通常の治療を中止してホスピスケアを受ける場合も、メディケアから給付される。ホスピスケアには、苦痛緩和、カウンセリング、理学療法、看護サービス、症状管理などが含まれる。このようにCCRCでは、メディケアを活用して継続的にケアのマネジメントを行い、”Aging in Place”を実現するシステムとなっている。

  わが国では長期入院による廃用症候群、望まない延命医療によるQOLの低下、複数薬剤の投与による有害事象が問題となっている。CCRCでなくともコミュニテイで自立支援を行い、かかりつけ医が、継続的で包括的な医療を提供することにより費用を削減し、高齢者のQOLを向上させることに貢献することを期待したい。

第7巻 巻頭言

Date
2012-10-01 (Mon)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 国立社会保障・人口問題研究所は、2010年の国勢調査の確定数に基づく2060年までの全国将来人口推計を2012年1月に発表した。出生中位、死亡中位予測によれば、医療サービスや介護サービスのニーズの高い75歳以上の高齢者数(割合)は、2010年1千419万4千人(11.1%)であったものが、2020年に1千879万人(15.1%)、2030年に2千278万4千人(19.5%)、2040年に2千223万(20.7%)、2050年に2千384万6千人(24.6%)、2060年に2千336万2千人(26.9%)となる。これは、高齢者数は2030年以降にはそれほど増加しないが、出生数が減少するために確実に75歳以上の高齢者割合が増加することになる。
 政府が2012年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」には、2025年に「あるべき姿」を実現させるため、医療機関の機能分化を一層進めることが明記されている。具体的には、現在約107万床ある一般病床を高度急性期、一般急性期、亜急性期病床に振り分け、高度急性期に医療資源を重点配分する一方で、急性期、慢性期、在宅医療の連携を強化して患者に過不足のない医療を提供する絵姿を示した。今改定はその「2025年モデル」を強く志向した内容になった。2012年の診療報酬改定では、在宅医療、訪問看護、ターミナルケアへも診療報酬を多く配分し、地域包括ケアの後押しをしている。
 今後、社会保障費の伸びを抑制することは急務であることから効率的なケアを行っていくことが求められるが、質を犠牲にしない創意工夫が必要である。高齢者にとって質が高くしかも効率的なケアを行っていくために最も重要なのは医療・介護サービスの理念であろう。それは、かつてのように高齢者を収容し、管理するものではなく、「高齢者の運動機能、口腔機能、栄養状態を高め、さらには認知・情緒面の改善を通じて、生活機能を高め、生きがいや自己実現の達成に向けた支援」を行う姿勢であろうと思われる。筆者らは、日本型CCRCを「高齢者が年を経るごとに変わっていくニーズに応じて、継続して同じ場所で生活ができるように、介護の機能をもつ高齢者住宅、リハビリ施設、介護事業所、地域交流センター、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションなどを備えた複合施設を核として、他の自立型、支援型、介護型の高齢者住宅とネットワークを結び、地域包括ケアの機能も果たす一連のシステムである」と定義し、これらが地域包括ケアシステムを支えていくことがひとつの解決策になるのではないかと考えている。
 日本型CCRCは、地域包括ケアシステムの要件である、①医療との連携強化、②介護サービスの充実強化、③予防の推進、④見守り、配食、買い物など、多様な生活支援サービスの確保や権利擁護、⑤高齢期になっても住み続けられる高齢者住宅の整備を満たすことができる。日本型CCRCでは高齢者に新しい安心・安全なライフスタイル(生活様式)や予防サービスを提供でき、生活の質を向上させることができる。また、高齢者が、脳梗塞、心筋梗塞等が発症し、急性期病院に入院した場合でも、CCRCで受け入れがスムーズに行えるために、医療資源の効率的な利用につなげることができるからである。
 複合施設を核として、他の自立型、支援型、介護型の高齢者住宅とネットワークを結ぶ日本型CCRCモデルは、24時間安心してケアが受けられる地域包括ケアのシステムに対するアイデアを提供するものである。24時間の訪問サービス体制を実現可能なものにするためには、介護サービスは主として日勤帯に行い、深夜には必要不可欠な在宅医療・看護サービスを主として提供していくことにする方が望ましいと思われる。また、地域包括ケアの質を上げるためには、介護分野で働く人材の教育が必要となると考えられる。
 高齢者を支援するということは高齢者との共同作業行うことであるので、まず、高齢者をよく理解することから出発すべきである。高齢者の立場にたって、「相手が何を望んでいるかというところに関心を持ち、どのように支援したら、それを満たすことができるか」ということに焦点づける必要がある。その潜在的なニーズを満すためには、組織的な仕組みづくりが必要である。介護分野のスタッフが、介護技術とともに、マネジメント、マーケティングの知識を持つことにより、介護分野の仕事の生産性を向上していけるものと考える。

第6巻 巻頭言

Date
2011-10-01 (Sat)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

本年の夏、米国政府の債務不履行に関する問題が話題となり、14兆ドル以上の債務を抱えることが国際的に知られわたることになった。クリントン政権下では米国政府の財政は黒字であったが、ブッシュ政権下で富裕層の減税を行い歳入が少なくなったこととイラクとアフガンとの戦争で歳出が膨らんでしまったのがそもそもの原因である。その後、リーマンショックの対策のために巨額の支出を行い、2009年度は1兆4130億ドル、2010年度は1兆5560億ドルの赤字、2010年度も同等の赤字が見込まれ、財政が逼迫してしまったのである。これは不景気になれば財政を出動し、金利を緩和すれば何とかなるという政策は通用しない時代となっていることを示している。そのため、オバマ大統領は富裕層の増税を提案しているが、共和党は歳出削減を唱えている。その削減のターゲットとなっているのが高齢者のための医療保険であるメディケアである。
メディケアは、65 歳以上の者、社会保障給付の受給資格を有する障害者、慢性腎不全患者に受給資格を与えている。主な部分はパートAとパートBからなり、パートA は入院サービス、高度介護療養施設、在宅訪問診療、ホスピスケアなどの費用をカバーしている。主な財源は社会保障税である。一方、パートBは、医師の診察、検査、外来手術などの外来サービスなどを含んでいる。主な財源は、保険料と一般税である。米国は2008年現在、医療費に2.3兆ドル、GDPの16.4%を使っている。米国の高齢者(65歳以上人口)割合は12.7%に過ぎず、日本の22.1%よりも過ぎないが、メディケアによる支出は5,990億ドルにも上る。メディケアの加入者は4,500万人であるので、1人当たり1.33万ドルかかっていることになる。2010年からベビーブームの世代が、メディケアの受給者になっており、今まで積み立ててきたメディケアの信託基金は2019年には枯渇するであろうと予測されている。
メディケアの主な支払いの対象は急性期医療であるが、高齢者の疾患を急性期医療だけで完治させるのはむずかしいので、急性期医療に偏った支出をすれば効率が悪くなるのは当然である。プライマリケアや慢性期医療を重視していく方が、高齢者の医療にはマッチしているであろうし、費用もかからないであろう。加えて、米国は介護サービスに関しては公的にはカバーされないのが原則となっているが、今後の経済的な予想や高齢化を考えると介護保険も導入することも選択肢のひとつにしてもいいと思われる。高齢者の医療サービスは介護サービスと代替材的な側面があり、そのような分野では介護サービスの方がコストは安く、高齢者のQOLも向上させることができるからである。
日本では2000年に介護保険制度が導入された。高齢者介護を社会化することが制度化の目的であったが、コストがかかり、QOLの向上にもつながらない不適切な高齢者の病院や施設への入院や入所を防いでいくことも重要な使命であった。2011年現在、わが国では65歳以上の高齢者の約17%が介護保険の受給資格を認定され、500万人の人が利用している。導入後、施設サービスの受益者は83%増加したが、在宅、通所サービスを受給する高齢者は203%も増加し、約140万人がホームヘルパーによる訪問介護を受け、約190万人が通所サービスを利用している。日本の公的介護保険制度では、専門家の助言を得た上で消費者が、在宅、通所、施設サービスを選択できることが特徴である。また、現金給付を認めなかったことも専門的な介護を受けられる人が増加し、家族介護者の労働参加率も上昇することにつながった。一方、問題もある。2000年に55万人であった介護労働者が2008年には128万人まで増えたが、給与など労働条件が相対的に恵まれておらず、介護労働市場は慢性的な人手不足になっている。また、地域によっては介護事業者が少なく、十分な介護サービスを受けられない高齢者も存在する。さらに、コストがかかる24時間サービスを提供する事業者も不足している。そして、医療と介護の連携が悪く、高齢者のQOLに悪影響を及ぼしていくことも指摘されており、改善が望まれている。
日本の高齢者割合は1990年には12%であったが、2010 年には23%となった。これは世界一であるが、2050年には40%になると推計されている。世界に先駆けて超高齢社会となった日本は、高齢者に対するケアの質を上げるとともに効率化をすすめていく知恵や技術を蓄積し、その経験を海外にも発信していくことも求められていくであろう。

第5巻 巻頭言

Date
2010-10-01 (Fri)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 民主党が後期高齢者医療制度の廃止を求めた昨年の衆議院選挙から1年以上がたち、ようやく75歳以上に対する高齢者医療制度の骨格が明かになった。勤労しており、被用者健康保険の被保険者の資格がある高齢者や被用者健康保険の被保険者に扶養される高齢者は被用者健康保険制度に加入し、それ以外の高齢者は国民健康保険に加入することになる。結果的に2割の高齢者が被用者健康保険に、8割の高齢者が国民健康保険に加入することになると推定されている。これにより、年齢で保険証が変わることもなくなり、同じ世帯であれば高額療養費の自己負担額が一本化されるために、同じ世代の高齢者と若人世代の被保険者が高額な医療費がかかった場合、負担額が軽減されることになった。
 保険給付の負担は、現在のところ新たな消費税の導入などがすぐには見込めない以上、基本的に、5割が公費、4割が現役負担からの支援金、1割が高齢者の保険料となりそうである。高齢者が多い国民健康保険は、被用者健康保険よりもより多くの公費や現役世代からの支援金を受け取る財源調整が行われる。また、高齢者の保険料の伸びは、現役世代の保険料の伸びを上回らないことになった。この方法では、将来的には保険財政は破綻してしまうリスクが高いので、公費の投入を考慮する必要があると思われる。
 高齢者医療制度の問題は、1973年の老人医療費無料化に遡ることができる。これによって老人の医療費の負担は軽減されたが、高齢者の社会的入院が起こり、老人医療費の急増と高齢者の自立を妨げる弊害も産んだ。そこで、1982年に老人保健法が制定され、医療に偏りがちであった高齢者の保健・医療サービスを予防・リハビリテーションにも財源を振り向け、また老人医療費を国民で公平に負担することを目的として、老人の一部負担と各保険者からの拠出金により老人医療費を拠出する仕組みが導入された。その後、高齢化の進展等に伴う拠出金の増大に伴い、実際の老人加入者数に比べ拠出金負担が重い被用者保険サイドからの批判の声が強くなり、1990年代後半から新たな高齢者医療制度のあり方に関する検討が始まった。2003年3月には、いわゆる「基本方針」(が閣議決定され、高齢者医療制度については、高齢者を65歳以上75歳未満の「前期高齢者」と75歳以上の「後期高齢者」に二分したうえで、前者については制度間の不均衡調整措置の導入、後者については独立保険制度の創設が打ち出された。「後期高齢者医療制度」は10年以上にわたって周到に用意されたものであった。しかしながら、このような動きは高齢者に周知されたものではなかった。
 2010年8月2日、福岡市で「新たな高齢者医療制度のあり方」についての公聴会が開かれた。会場は満席であった。入場するためには事前の参加申し込みが必要であったことを考えれば、関心の高さが窺えた。保険者や医師会などの医療に関係する団体からの出席者も多かったが、最も目立ったのは高齢者の姿であった。振り返ってみれば、後期高齢者医療制度を廃止に追いやったのは、高齢者の力であった。75歳以上の保険を別建てにして、「後期高齢者医療制度」を作るという考え方が、差別的であるととらえられ、大きな反発を買ったのであった。今後、高齢者が増加していき、選挙で強い力をもっていくことを考えれば、高齢者の納得なしでは医療制度改革は進行しないであろう。
 「新たな高齢者医療制度」では、医療の内容の変更にまで踏み込んではいない。今後は、医療の内容までを検討する必要があろう。高齢者が増加していけば、「悪性腫瘍」、「心臓病」、「脳血管疾患」などの急性期疾患も増え、その医療も充実させていかなければならない。現状の長期入院を維持していけば、生活を医療スタッフが支えることになり社会コストが高くなる。そして限られた医療従事者や病床といった資源を非効率に利用することになる。また、高齢者も長期入院することで「廃用症候群」が発生し、QOLは著しく低下してしまう。このような現実も高齢者に伝えていく努力も求められる。
 そして、今後、疾病や障害をもった高齢者が病院に入院せずに在宅療養を継続できるような医療提供体制の整備や、高齢者アパート等の入居施設を整備していくことが必要であると考えられる。また、高齢者が心身ともに健康で、社会的な貢献ができるよう、疾病予防事業、介護に関するボランティア事業など、高齢者が積極的に参加でき、生活の質の向上につながるような事業も求められよう。

第4巻 巻頭言

Date
2009-10-01 (Thu)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 本年8月30日に行われた衆議院選挙により、民主党が勝利を収め、政権交代が行われることになった。マニフェストのなかでは、後期高齢者医療制度の廃止が謳われており、元の老人保健制度に戻すことも検討しているようであるが、これに対しては自治体から反発されている。
 わが国の国民皆保険制度は、雇用主に被雇用者と被扶養者を被用者健康保険に加入させることを義務づけ、それ以外の人は国民健康保険に加入させて、それに公費を投入することで成り立たせているのが特徴である。高齢者医療の財源は、制度間で財源調整をする老人保健制度で対応してきたが、国民健康保険に高齢者が増加し、しかも保険料収入の伸びが望めないために、老人保健制度の維持が困難になったのである。そのことが、後期高齢者医療制度の導入された原因であった。各都道府県を単位として連合を作り、スケールメリットを利用し、リスクを分散する方法は理にかなったものである。また、この財源は、高齢者自身の保険料で1割、その他の医療保険者から4割、そして残りの5割を国や県・市町村からの「公費」として、負担が明確になっていることも意義があると思われる。
 保険の基本は自分の医療費のリスクにみあった保険料を払うことであるが、疾病や障害のリスクの高い高齢者は、その仕組みでは保険料は非常に高くなってしまう。現役世代から高齢者へといった所得再配分が保険料や税金を通じてなされる必要がある。それは、助け合いの制度化である。そうであるからこそ、医療費を誰がどのように負担していくかということや医療費が何にどれだけかかっているかということについては公表され、議論した上で、納得して使われていく必要がある。
 後期高齢者医療制度では、高齢者にマッチした医療を提供することも謳われているが、これも的を外れたものではない。福岡県の高齢者医療費が高い理由は、1973年の老人医療費無料化を契機に、また、炭鉱などが多かったという福岡県の事情も重なり、障害や病気の高齢者を医療機関でお世話をしていくといった習慣ができあがってきたことと関連している。しかしながら、高齢者の割合は急速に高くなってきており、医療の現場で高齢者をケアしていくことは経済的に困難になっている。一方、高齢者は病気になっても自宅で生活し、終末を迎えたいという希望があるが、それをかなえられない現実がある。高齢者が自宅や高齢者住宅で生活しながら、在宅医療や訪問看護を受けながら医療を受けることも保障するための創意工夫が求められている。
 高齢者は疾病に罹りやすいので医療のニーズが満たされることは必要であるが、高齢者自身も医療機関に任せきりにしないで、自分の健康に気をつけ、医療やケアを自分で選んでいくといった姿勢も求められる。また、高齢者も、自尊の要求が満たされ、周囲の人に貢献するための自己実現の欲求を満たされるニーズもある。そのような視点で高齢者対策を行えば、高齢者の生活も充実し、疾病や障害の予防にもつながるばかりか、助け合いを基盤にした健康な社会を作ることにもつながっていくと思われる。
私達の医療制度は満足のいくものではないかもしれないが、すべての人が満足する医療制度を作ることはできない。問題があるから壊すというのではなく、問題があるところは改善しながら、国民皆保険制度を守っていくという姿勢が求められていると考える。

第3巻 巻頭言

Date
2008-09-01 (Mon)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 後期高齢者医療制度とは、75歳以上の後期高齢者を対象として、平成20年度に独立した医療制度である。保険料徴収は市町村が行い、財政運営は都道府県ごとに全市町村が加入する広域連合が実施する。財源構成は自己負担を除き、公費50%、現役世代からの支援40%、高齢者からの保険料10%である。平成20年(2008年)4月以降に、満75歳となる者については、「75歳の誕生日から」新制度の対象となるが、同様に特に手続きなどの必要はない。
 後期高齢者医療制度の評判が悪いのは、平成20年(2008年)4月の年金支給分から年金の支払期ごとに、該当分の保険料が自動天引きされて、年金の手取額が減ることになるのが一番の理由である。また、社会保険の被扶養者であった高齢者は保険料の支払義務がなかったが、今後、支払い義務が生じることもある。さらに、厚生労働省は後期高齢者を対象とした「かかりつけ医」制度の導入、そして後期高齢者の「外来診療への定額払い報酬の導入」の方針を後期高齢者診療料で示した。これによって、自分が受けたい病院で受けたい診察を受けるという「医療機関へのフリーアクセス」と、「必要な診療」が制限されるおそれがでてきたのである。このことが、後期高齢者医療制度が、「長寿医療制度」ならぬ、「姥捨て山医療制度」と呼ばれる理由である。
 しかしながら、2005年の1人当たり医療費は、15歳未満が129.5千円、15歳以上65歳未満が165.4千円、65歳以上は655.7千円、(75歳以上は819.1千円)、医療費に占める割合は、15歳未満が6.9%、15歳以上65歳未満が42.1%、65歳以上は51.0%、(75歳以上は28.8%)であった。今後1%ずつ医療費が上昇すると、2025年の1人当たり医療費は、15歳未満が158.0千円、15歳以上65歳未満が201.8千円、65歳以上は800.1千円、(75歳以上は995.5千円)、医療費に占める割合は、15歳未満が4.2%、15歳以上65歳未満が31.6%、65歳以上は64.2%、(75歳以上は47.8%)になり、医療費のうち3分の2を高齢者が使うことになってしまうのである。人口構成の割合の変化をみれば、このままの医療供給体制では医療保険制度は破綻していく可能性が高い。といっても、高齢者が受けられる医療に制限を加えることはできるだけ避けられる方が望ましい。
 わが国における少子・高齢化の進行は、他の先進諸国に比べ急速で、深刻であり、医療における需要と供給のミスマッチを生んでおり、開設している小児科や産婦人科の減少が社会問題となっている。また、進行中の医療制度改革では、高齢者のケアのあり方もターゲットになっているが、高齢者の入院医療のコストを検討すべき余地があると考える。高齢者の急性期の治療を病院で行うのは当然ではあるが、医療施設で行なう慢性期のケアは限定せざるをえないのではないかと考える。医療施設で医療スタッフが慢性期のケアを行うことは効率的ではないし、高齢者のQOLを重視したものにもならない。高齢者のケアを医療施設以外でも行うために、高齢者集合住宅などを整備して、在宅支援診療所や訪問看護ステーションなどと連携していく知恵と技術が求められている。

第2巻 巻頭言

Date
2007-09-24 (Mon)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 地域の医療機関で絶対的な医師不足が生じ、「長時間労働といった過酷な勤務条件」に加えて、「高い安全性を求める世論」に耐えかねて、臨床医が次々と病院を去っていき、地域で必要な救急医療、小児科医療、産婦人科医療などが行えない状況が起こっている。この状態は「医療崩壊」とも呼ばれている。これは、新医師臨床研修制度の導入をきっかけに、大学の診療科によっては入局する医師が大幅に減少し、地域の医療機関から医師を引き上げたことにより起こったとの説もあるが、原因は構造的である。
 医療崩壊は、老人医療費無料化以降できあがった医療供給体制が、近年の医療政策によって引き起こされた医療の需要の変化とマンパワーの供給の変化に対応できていないことが原因である。日本の保険医療支出は、米国の半額以下であり、カナダ、ドイツ、フランス、イギリスよりも低い。また、医師数も看護師数も少ない。一方、一般病床数は圧倒的に多く、病床利用率も高い。これらは、入院患者の絶対数が多く、平均在院日数も長いからである。1990年代は、一般病床の平均在院日数は30日を超えており、日本の医療機関の医療スタッフの少ない問題は、入院患者に高齢者が多く、在院日数が長かったため、あまり、顕在しなかったともいえる。
 しかし、近年、厚生労働省の政策により、平均在院日数が短くなり、リスク管理や診療録の管理などにも時間がかかっている。加えて、少子高齢化の影響のため、小児科や産婦人科の患者が減少し、医療機関にとっては採算が合わなくなっている。そのこともあって、小児科や産婦人科を志す医師が減少している。その結果、当直の中心となる若手医師が絶対的に不足し、労働条件が悪化し、ますます志願者が少なくなっているのである。それを考慮すれば、一般病床の機能分化を行い、急性期病院の効率化を行うことは必要であると思われる。また、小児科や産婦人科をはじめ、救命救急、麻酔科、外科など労働条件に恵まれない診療科を目指す研修医が不足する一方、労働条件の良い診療科目は人気があるのも問題である。さらに、新規に開業する医師も増加し続けている。医師の絶対数ばかりでなく、医師の診療科の偏り、地域の偏り、病院・診療所の偏りといった分布の解決が優先されるべきである。加えて、医師の3割が女性医師になろうとしているが、医師の労働条件が悪すぎて、仕事と家庭を両立できない女医の問題も真剣に考えるべきである。
 しかしながら、老人医療費無料化によって歪んでしまった日本の医療供給体制を是正していくことも重視すべきである。必ずしも医療ニーズの高くない高齢者が医療機関に長期間入院していることで人手不足が起こっていることは事実である。高齢者のケアでも、医療以外で対応できるものは医療以外で対応すべきである。高齢者が病気や障害をもった場合、その生活の支援のすべてを医療が担うのは効率的ではないし、高齢者の生活の質を向上させることもできないからである。
 高齢者は急速に増加しており、医療や介護の必要な高齢者も増加している。今や、高齢者において発生する疾病の数や必要とされる介護のニーズを定量的に把握して、公正に効率よく資源を配分していく知恵と技術が求められている。高齢者コミュニテイなどを建設し、疾病に懸った場合、まずは在宅療養支援診療所で対応し、他の医療機関と連携していくシステムは、今後、公正に効率よく資源を配分することに貢献できるのではないかと考えられる。医療福祉経営マーケテイング研究会で設計した新しい高齢者への医療・福祉サービスのシステムが実用化され、社会で生かされることを期待したい。

第1巻 巻頭言

Date
2006-10-02 (Mon)
Category
ご挨拶
巻頭言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 高齢者医療の見直しなどで医療費の伸びの抑制を目指す医療制度改革関連法が、本年6月14日午前の参院本会議で与党の賛成により可決され、成立しました。この結果、10月には高齢者の負担増が始まり、70歳以上で一定所得以上の人の窓口負担は現在の2割から3割になります。療養病床に入院している高齢者の食費・居住費が全額自己負担になるほか、70歳未満の人も含め医療費の自己負担の月額上限が引き上げられます。 加えて、75歳以上の全員が加入する高齢者医療制度は8年4月に開始することになり、一般的な所得の70~74歳の窓口負担が1割から2割に上がることになりました。75歳以上は1割のままだが、全国平均で月6200円程度と見込まれる新保険制度の保険料を払わなければならなくなります。
 一方、医療機関への大きな衝撃として、現在、全国に約38万床ある療養病床は12年度初めまでに15万床に削減し、23万床分は老人保健施設や有料老人ホーム、在宅療養などに移行させることになりました。これらの決定は、高齢者を対象として医療を提供している多くの医療機関にとっては経営的な打撃となります。
 わが国は今後さらに高齢化が進行し、疾病や障害のリスクが高く要介護になりやすい後期高齢者は、2025年には現在の2倍以上の2026万人に急増するものと推定されています。さらに、国の財政状況は、2006年度予算で国及び地方の長期債務残高は775兆円となり、国の収入の49兆円の約16倍、国民総生産514兆円の1.5倍であることを考慮すれば、今までと同様に高齢者への医療・福祉サービスを提供することはできません。とすれば、このような状況を受け入れ、医療・福祉の分野においてどのような対応をすれば、社会に利益が生み出せるか創意・工夫をしていかなければなりません。
 今まで高齢者は、療養病床をはじめ介護施設の中で、収容・管理されるというケアを受けてきましたが、これらのケアの方法は現在の高齢者のニーズに合っていません。多くの高齢者は、医療・介護の心配のない環境で、安心・安定し、自立して生活することを望んでいます。欧米福祉先進国では、特に後期高齢者を対象に、安心・安定し、自立して生活することを支援する高齢健康コミュニティが発展してきており、これが、日本の高齢者福祉サービスの枠組みの中で、最も遅れた分野です。
 わが国でも、療養病床をもつ病院が、有料老人ホーム、老人保健施設、在宅療養支援診療所、訪問看護ステーションを併設すれば、CCRCと同様の高齢者健康コミュニティが開発できると考えます。この高齢者健康コミュニティで、高齢者の自由と選択が尊重されるマネジメントを行うことができれば、社会への貢献は計りしれないものがあると考えます。
 当研究会は、九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座の教員が発起人となり、「超高齢社会における潜在的なニーズ、新しいニーズに対応するために、保健・医療・福祉を連携、統合した、より効果的、より効率的なヘルスケア・システムを創造し、地域社会に貢献する」ことを目的として設立されました。医療経営・管理学講座では、医療問題を解決するための目的を明確にし、具体的に対策を組み立て、結果を評価し改善するシステムを構築することを目的としていますが、具体的なケーススタデイをしていくためには、このような研究会との連携が必要であると考えます。
 この研究会が、医療福祉経営マーケテイングの分野に新たな価値をもたらしていくことを願っています。

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