October 2016

Entries Title

第11巻 巻頭言

Date
2016-10-10 (Mon)
Category
ご挨拶

巻 頭 言

医療福祉経営マーケティング研究会
理事長 馬場園 明

  わが国では、「医療完結型」から「地域完結型」への医療のパラダイムの転換が進行中である。急性期の病気では急性期病床で治療し、回復期病床でリハビリを受けた後は、地域で継続的に生活できるような仕組みを構築することを目指している。その軸になるのが、「地域医療構想」と「地域包括ケアシステムの構築」である。

  「地域医療構想」とは、医療計画において当該構想区域における将来の必要病床数、高度急性期、急性期、回復期、慢性期病床数を定めるものである。2013年の医療施設調査では、病床数は134.7万床、一般病床100.6万床、療養病床34.1万床であった。一方、2015 年6 月15 日、「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」から2025 年の医療機能別必要病床数の推計結果も示されている。それによると、必要病床数は115 ~ 119万床、高度急性期は13万床、急性期は40.1万床、回復期37.5万床、慢性期24.2万~28.5床とされた。加えて介護系施設、高齢者住宅等が29.7~33.7万床となっている。一般病床と療養病床の合計値で既存の病床数と比較すると、2025年に向けて、不足する地域と過剰となる地域がある。大都市部では不足する地域が多く、それ以外の地域では過剰となる地域が多いとされている。なお、「地域包括ケアシステム」とは、「生活上の安全・安心・健康を確保するために、 医療や介護、予防のみならず、福祉サービスを含めたさまざまな生活支援サービスが日常生活の場(日常生活圏域)で適切に提供できるような地域での体制」と定義されている。

  2016年度の診療報酬改定では、病床機能の再編や地域包括ケアシステム構築の推進のため、様々な改定が打ち出された。急性期入院に対しては、7対1病床が過剰であるとの認識から、7 対1一般病棟入院基本料の施設基準の一つである「重症度、医療・看護必要度」の見直しが行われた。すなわち、前回改定以上に評価項目が厳格化され、看護必要度の基準は、25%以上また、地域包括ケアシステムの構築を目指した退院支援が手厚く評価された。患者や家族と退院後について話し合い、退院支援計画を作成し、チームでカンファレンスを行うことなどが評価された。また、必要に応じてケアマネジャーと連携して情報提供をすれば介護支援連携指導料を、退院直後の重症患者の患家を訪問すれば退院後訪問指導料を算定できることになっている。

  さらに、外来医療の目玉となったのは、「認知症地域包括診療料」と「小児かかりつけ診療料」が新設されたことである。これは2014年に新設された「地域包括診療料」とともに実地医家の総合診療医の役割を強化する狙いがある。また、そのほか、在宅専門診療所などが新設された。地域包括ケアシステム時代では、生活習慣病、変性疾患、精神疾患などの慢性疾患や障害が医療の対象の中心となっており、これらの診療は複雑であり、患者とは継続的な関係性を構築することが求められている。患者が紹介状なしで大病院を受診した際、定額の負担を求める制度が導入された。これにより、大病院から診療所・中小病院への外来移行が促進すると見られる。なお、薬剤の種類を減少させることを目的とした「薬剤総合評価調整管理料」も新設されたのも特徴的である。高齢者の疾病や障害のほとんどは、投薬によって治癒は望むことはできないし、高齢者に多種類の投薬をするのは副作用のリスクを高めるからである。もはや、「病院完結型」のパラダイムでは、患者の医療のニーズ・ウォンツを満たすことはできない。今後求められる医療経営・管理を検討していくには、このような医療サービスのパラダイムの転換を認識することが不可欠である。

  わが国の医療機関は、これまで高齢者の高額療養費の自己負担が低く抑えられてきたために、一般病床を持つ医療機関も慢性期医療を行っている場合が多い。一方、がんの化学療法、放射線療法、脳卒中救急、脳卒中の手術などは地域によっては不足している。なお、PCI(経皮的冠動脈形成術)などは過剰に行われている地域もあるようである。診療の過剰使用、過少使用、誤用を明らかにし、是正していかなければならない。医療は保険と税金など公的な資源で賄われている。透明性と説明責任を担保しているためには、レセプト・DPCデータをモニタリングして医療の需給バランスを明らかにしていくことが、医療資源を公正に効率よく分配していくことの鍵になると思われる。また、レセプト・DPCデータをモニタリングして、医療の質を改善していくシステムの構築を行うことが必要である。すなわち、診療のアクセス、プロセスと結果がデータベース化され、それが医療計画の設計や医療の質の改善に活用される時代を迎えるであろう。

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