September 2007

Entries Title

第2巻 巻頭言

Date
2007-09-24 (Mon)
Category
ご挨拶
巻 頭 言

医療福祉経営マーケテイング研究会
理事長 馬場園 明

 地域の医療機関で絶対的な医師不足が生じ、「長時間労働といった過酷な勤務条件」に加えて、「高い安全性を求める世論」に耐えかねて、臨床医が次々と病院を去っていき、地域で必要な救急医療、小児科医療、産婦人科医療などが行えない状況が起こっている。この状態は「医療崩壊」とも呼ばれている。これは、新医師臨床研修制度の導入をきっかけに、大学の診療科によっては入局する医師が大幅に減少し、地域の医療機関から医師を引き上げたことにより起こったとの説もあるが、原因は構造的である。
 医療崩壊は、老人医療費無料化以降できあがった医療供給体制が、近年の医療政策によって引き起こされた医療の需要の変化とマンパワーの供給の変化に対応できていないことが原因である。日本の保険医療支出は、米国の半額以下であり、カナダ、ドイツ、フランス、イギリスよりも低い。また、医師数も看護師数も少ない。一方、一般病床数は圧倒的に多く、病床利用率も高い。これらは、入院患者の絶対数が多く、平均在院日数も長いからである。1990年代は、一般病床の平均在院日数は30日を超えており、日本の医療機関の医療スタッフの少ない問題は、入院患者に高齢者が多く、在院日数が長かったため、あまり、顕在しなかったともいえる。
 しかし、近年、厚生労働省の政策により、平均在院日数が短くなり、リスク管理や診療録の管理などにも時間がかかっている。加えて、少子高齢化の影響のため、小児科や産婦人科の患者が減少し、医療機関にとっては採算が合わなくなっている。そのこともあって、小児科や産婦人科を志す医師が減少している。その結果、当直の中心となる若手医師が絶対的に不足し、労働条件が悪化し、ますます志願者が少なくなっているのである。それを考慮すれば、一般病床の機能分化を行い、急性期病院の効率化を行うことは必要であると思われる。また、小児科や産婦人科をはじめ、救命救急、麻酔科、外科など労働条件に恵まれない診療科を目指す研修医が不足する一方、労働条件の良い診療科目は人気があるのも問題である。さらに、新規に開業する医師も増加し続けている。医師の絶対数ばかりでなく、医師の診療科の偏り、地域の偏り、病院・診療所の偏りといった分布の解決が優先されるべきである。加えて、医師の3割が女性医師になろうとしているが、医師の労働条件が悪すぎて、仕事と家庭を両立できない女医の問題も真剣に考えるべきである。
 しかしながら、老人医療費無料化によって歪んでしまった日本の医療供給体制を是正していくことも重視すべきである。必ずしも医療ニーズの高くない高齢者が医療機関に長期間入院していることで人手不足が起こっていることは事実である。高齢者のケアでも、医療以外で対応できるものは医療以外で対応すべきである。高齢者が病気や障害をもった場合、その生活の支援のすべてを医療が担うのは効率的ではないし、高齢者の生活の質を向上させることもできないからである。
 高齢者は急速に増加しており、医療や介護の必要な高齢者も増加している。今や、高齢者において発生する疾病の数や必要とされる介護のニーズを定量的に把握して、公正に効率よく資源を配分していく知恵と技術が求められている。高齢者コミュニテイなどを建設し、疾病に懸った場合、まずは在宅療養支援診療所で対応し、他の医療機関と連携していくシステムは、今後、公正に効率よく資源を配分することに貢献できるのではないかと考えられる。医療福祉経営マーケテイング研究会で設計した新しい高齢者への医療・福祉サービスのシステムが実用化され、社会で生かされることを期待したい。

事務局だより№2

Date
2007-09-24 (Mon)
Category
News&Column

医療福祉経営マーケティング研究会
事務局長 山﨑

 本研究会は、医療機関、医療に関する今日的な問題を解決するために開発された大学の研究成果である知的財産を、具体的な事例研究を通して、医療の現場に還元していくことを目的として、昨年4月に発足しました。私は本年4月から研究会の事務局長の任をさせていただいています。
 私は福岡県内の医師団体事務局の仕事をした後、病院管理の専門的な知識を習得するために、国立医療・病院管理研究所の病院管理学研究科コースに就学しました。このコースは由緒あるもので、日本における病院管理学の歴史は戦後始まっていますが、昭和23年7月に医療法が施行され、翌24年6月、厚生省病院管理研修所が設立されたことに由来します。 病院管理学とは、医療サービスを提供する施設の経営・管理に関するあらゆる領域の総合された学際的な学問であり、そこには、経営学、会計学、経済学、法律学、社会学といった既存の社会科学系の学問や統計学、医学、建築学、保健学、老年学といったいわゆる自然科学系の学問を基礎として、医療施設の内外のさまざまな問題を多角的に研究する学問であるといえます。
 このような病院管理学の一端を学び、その後は病院の経営計画部門で病院事業に従事してきました。当時は日本の急速な高齢化、寝たきり老人の増加等が社会的問題となってきた時代でした。また、医療倫理が大きな問題となり大学病院、国立病院、そして中小病院にいたるまで「病院憲章」が考案され、「ヒポクラテスの誓い」がいたるところで施設内にはりだされました。その後に出てきた新しい医療倫理の概念が、「インフォームド・コンセント」でした。
 そして、1973年アメリカ病院協会の「患者の権利宣言」、1978年「アルマアタ宣言(プライマリー・ヘルス・ケアに関する宣言)」、1981年「患者の権利に関するリスボン宣言(第34回世界医師会総会採択)」などが1980年代後半頃から、大いに話題になったことを覚えています。これらが我が国の医学・医療の倫理規範を向上させ、病院管理学にも影響を与えました。この背景には、国民総医療費の増大とも絡まって、病院医療に対する国民の信頼感が問われ、医療提供サイドに重心が置かれた医療を国民サイドに移さなければならないという作用が医療界で働きだしたことにあります。医療界の動きは1952年米国JCAHの科学的医療の質の評価研究等の影響も受けて1997年日本医療機能評価機構発足による「病院評価事業」として現れました。昨今の「市場原理」の導入による、利益優先主義とはその旨を異にする一つの時代でした。
 その頃、時期を同じくして老人保健法が改正され、老人保健施設が創設されました。1989年、私は国立医療・病院管理研究所で老人保健施設の運営に関する設計を9人の同志と共同制作しました。それぞれが、「一人が一老人保健施設をつくろう」と燃えており、やがて全国に散らばりました。この時のリーダーが病院管理学研究所の小山秀夫先生でした。つまり、民間医療機関の中長期計画の策定―-中小病院のヨコ展開―-が全国で始まったのです。
 当時は経済の状況は良く、今日の「縮小合理化」とは全く反対の「それいけドンドン」という状況でしたが、老人保健施設は「中間施設」と位置づけられ、病床削減であることは今日の療養病床再編問題とは本質的には同じものといえるでしょう。7つのモデル施設から始まった老人保健施設が20年して3,480施設数(2007年6月現在)になったことは、わが国の医療提供体制を大きく変貌させたものと云えるでしょう。
 研究会では、このような医療環境の変化、構造改革を受け、現場とのコラボレーションによる研究部会を設置し、実際的なケーススタディ研究を行っていくつもりです。
 第一番目に、第五次医療構造改革が進行し、療養病床の再編、DPCの導入、在宅医療へのシフト等医療環境が大きく変化する中で、研究会では医療政策を踏まえ今後の医療機関のあり方、方向性を研究していく目的で新しい視点に立った病院管理の専門家が必要になってきたことを受け、「病院管理学研究部会」を設立しこの分野の研究を進めていく予定です。
 第二番目に、「高齢者健康コミュニティCCRC研究部会」を発足し研究を進めています。これからの医療保険制度、介護保険制度を維持していくためには、限られた医療・福祉財源を有効に活用していく必要があります。その一つの方法として、保健・医療・福祉サービスを統合して提供するシステムを構築することが考えられます。米国には保健・医療・福祉を統合したシステムとして、CCRC(Continuing Care Retirement Community)というシニア住宅システムがあります。直訳すると、「継続した保健・医療・福祉を提供する高齢者の生活共同体」となりますが、私たちは「高齢者健康コミュニティ」と名付けました。高齢者は、収容管理されることから自由・選択の時代へニーズは変化している中、本研究部会では、具体的なケーススタディを通して、日本に適したCCRCを研究していくつもりです。
 第三番目に「医療経営ファイナンス研究部会」を発足させる予定です。これは、診療報酬改訂や医療構造改革の中、病院の収益力の低下、資産価値の下落、過去の過剰な設備投資等により、過剰債務を抱えた病院も多く、公的金融機関や民間の金融機関の従来の資金調達は限界に達した部分があり、一般企業で先行している証券化等の新しい金融技術を活用したファイナンスの研究が、医療機関でも不可欠になってきたからです。高齢化の医療・福祉資源のインフラの再構築をするために、社会に医療資源への投資のリスクをシェアしてもらうことが必要です。これによって、社会に利益をもたらすことができると考えています。
 また、医療制度における法的な問題として、医療法人のあり方が大きな議論になり、本年、公益法人の根拠法となる民法が大きく改正され社会経済システムとしての「法人の将来像」が示され、その下での「医療法人制度改革」になりました。
 私は本年4月から、「医療提供体制における今後の医療法人のあり方と課題」について民法学の立場で研究を始めました。この事例は社会保障法とも関連し医療経営・管理学の事例研究として絶好の素材となるでしょう。つまり、マーケティング研究は病院等の経営体・組織体にまでマネージメントする必要まで接近していくでしょう。本研究会の共同研究にも採択できるほどのテーマといえる理由もそこにあります。
 本研究会が九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授の研究指導、知的財産と結合してさらに発展することを願って事務局の挨拶といたします。

第2巻第1号(2007年9月号)

Date
2007-09-01 (Sat)
Category
論文・機関誌

第2巻第1号(2007年9月号)が発行されました

PDFファイルにてお配りしております

医療福祉経営マーケティング研究 第2巻第1号 (2007年9月号)

冊子をご希望の方は事務局までご連絡ください


【目次】

巷頭言
医療福祉経営マーケティング研究会 理事長 馬場園明

原著論文
新人看護職員が抱える主観的ストレスおよび早期離職行動に与える職業性ストレスの影響
重田尊子、荒木登茂子、馬場園明・・・1

新人看護師の透過性調整力と職業性ストレスとの関連について 西牟田理恵・・・13

ケーススタディ
次世代ヘルスケアシステムの研究:リハビリテーションを核とした急性期から回復期を経て自宅に戻るまで、切れ目の無い医療・介護サービス体制の構築を目指して一特定医療法人順和長尾病院・その1- 服部直和、服部文忠、眞崎弘太、窪田昌行、山崎哲男、馬場園明・・・27

資料
病医院の事業多角化戦略・モデルプラン考 窪田昌行、坂口暢史、馬場園明・・・41

事務局便り
医療福祉経営マーケティング研究会 事務局長 山崎哲男・・・57

研究会規約
医療福祉経営マーケティング研究会規約・・・59

投稿論文規定
投稿論文規定(和文・欧文)・・・63

編集後記
医療福祉経営マーケティング研究会 編集委員 荒木登茂子・・・64

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